松沢呉一のビバノン・ライフ

スマホ自転車に追突された時に怒れなかった理由—謝罪すれば済むことなのに謝罪できずに傷を深めるのはなぜか[前編]-(松沢呉一)

 

 

スマホ片手の自転車に追突された

 

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火曜日のこと。何年も前に行ったきりの銭湯に久々に行くかと思い立ちました。また行きたいと思っていた銭湯ではないのですが、東京の全銭湯を制覇してからは、一度行ったっきりの銭湯に時々行って気分転換するようにしているのです。

まるで場所を覚えておらず、スマホで地図を見ながら暗くなった道を歩いていたら、突然、後ろからドーンという衝撃を受けました。ドローン攻撃か、はたまた喪黒福造か。

振り返ったら、片手にスマホをもったおっさんが乗った自転車でした。50代でしょうか。スマホ運転をするおっさんがスマホ歩行をするおっさん(半ばじいさん)に衝突した事故です。

自動車やバイクはもちろんのこと、スマホを使いながらの自転車も十分に危険です。

三半規管が老化してバランス感覚が悪くなりながらも堅牢な体躯の私だからよかったようなもので、これが幼稚園児だったら、地面に頭を叩きつけ、脳漿を垂らしながら、「もっと生きたかった」と泣きながら絶命するところでした。

大の大人でもスマホ運転の自転車に追突されて怪我をするケースが時折報じられますし、亡くなった例もあります。

片手運転の自転車ほどは危険ではないながら、私もスマホに意識をとられていて、後ろから自転車が来たことにまったく気づいていなかったですから、人のことを叱責できる立場にはなかったことでもありますし、何よりおっさんは「すいません、すいません」と平謝りだったので、怒ることもなく、銭湯に向かいました。

TVアニメ「笑ゥせぇるすまん」のサイトより。Fを含めて、藤子不二雄の作品の中でもっとも好き

 

 

謝られると怒れなくなる

 

vivanon_sentence目指す銭湯に着いたら、改装のための臨時休業でした。そっちの方が腹が立ったわ。銭湯の臨時休業はネットに反映されないことが多いものです。

同じ西武新宿線の銭湯に行ったのですが、そちらも一回行ったきりだったので、まるで記憶がなく、新鮮な気持ちで入ってきました。覚えているほどの魅力がない銭湯とも言えます。

銭湯を出て、駅に向かう道で、腕が痛いことに気づきました。ぶつかったのは尻だけだと思っていたのですが、ハンドルが腕にぶつかったのかも。スマホに意識をとられて、どこにぶつかったのかもわかっていなかったようです。

皮膚が破れたり、腫れたりはしていなかったですが、こんなことなら恐喝すればよかった。

しかし、人間、謝られると怒れなくなるものです。内容次第、状況次第、相手次第ではあれども。

 

 

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