外国人受け入れ条件のうち緩和していい部分—「あしや提案」とフランスの暴動から考える[後編]-(松沢呉一)
「日本語よりも日本のルールとその原理を理解することの方が外国人には難しいかも—「あしや提案」とフランスの暴動から考える[前編]」の続きです。
フランスの失敗を直視する
フランスではこのところ大変なことになっていましたが、やっと収束したようです。
フランスやギリシャでは、労働運動や法改正の反対運動がしばしば激しく闘われているので、最初はいつものことと思って私はあんまり追ってなかったのですが、今回は移民二世が警官に射殺されたことを契機として、店舗での略奪、民家やバス、自家用車への放火が相次いで、そこに至ると、プロテスト好きの私も容認できなくなります。容認できるのは路上に火炎瓶を投げることまで、
この私の感覚は、フランスでも広く見られるもののようで(どこでもそうか)、パリで起きた移民による過去の暴動では3週間続いたものもあって(2005)、その際には略奪は起きていなかったとのことです。警察とぶつかるだけなら容認され、場合によっては移民以外の人たちも加勢しますが、略奪に至ると移民の中でも反発が生じます。
当初、射殺された青年の母親が呼びかけていた平和的な抗議デモでは、移民以外も参加し、青年に同情的な人々も多かったのですが、暴走した連中が動きを潰してしまいました。
結果としては短期で終わってよかったのかもしれないですけど、フランスではもちろん、ヨーロッパ各国のメディアでは「なぜこんなことになったのか」についての分析や討論が続いています。
日本でも解説はなされていますが、以下がわかりやすく、重要ポイントの漏れがあんまりないかと思います。
これは5日前のものなので、なお暴動が続いていました。
いくらか補足しておきます。今回の暴動を担ったのは北アフリカ(ナイジェリアやモロッコ、チュニジアなど)からの移民二世というのはほとんど間違いないとして、一部で「移民の仕業だと決めつけるな」と言っている人たちもいます。その根拠は、「拘束された4千人のうち外国籍は 1割のみ」ということだったりしますが、二世は原則フランス国籍を取得していますから、この数字は意味を持ちません。むしろ、新たに来た移民が1割混じっていたことの方が驚きです。移民コミュニティの中に入れば、一緒に行動してしまう。
移民二世のギャングは組織率が高く、移民二世の10%に達するとどっかのメディアが報じてました(移民居住区に住む二世の10%かもしれない)。ギャングは武装も進んでいて、毎年、強盗や殺人などの凶悪事件を起こしており、ギャング間の抗争も激しい。内輪でやっている分には「勝手にしろ」ってことですが、今回はフランス社会に銃が向けられ、銃を撃っているところが映像に残っています。
フランス国籍を持つ移民の二世が拘束者の何%を占めるのか不明ですが、新規の移民者と合わせても100%にはならず、一部、極左グループやアナキスト・グループも参加していたと報じられています。激化した要因のひとつは彼らの煽りにあるかもしれない。彼らは略奪まではしないでしょうが、メキシコのアナキスト系フェミニストたちは略奪までしていたっぽいですから、どんなもんだか。だとしても、万単位が参加した今回の暴動で、左翼系はせいぜい数百ですから、取るに足らない。
ここに至ってから問題を解消するのは困難
きっかけになった移民二世の射殺映像を見ると、たしかに警察は過剰で、脚かタイヤを撃つべきでしたが、移民ギャングが武装していることまでを考えると、警官が過剰な対応になってしまうのもわからんではない。
アフリカや中東から来た移民たちは、大半が同化することなく、移民の居住区に集まって、自分らのコミュニティを作っています。それでも一世は、フランスに恩義を感じるところがあるでしょうが、二世ともなると、言葉が話せても、貧しく、十分な教育も受けられず、仕事がなく、一生ここから出られないのかと鬱屈するしかなく、せいぜい悪いことをやって金を得るしかない。
その気持ちもわかります。
今回のことで、反移民の意識も広がってしまったでしょう。一部では極右が町を守るために暴徒と対峙していて、極右を支持してしまう人々の気持ちもわかります。
どれもこれも理解できるわけで、こんな状況に至った理由は移民対策の失敗であることは明らかです。対等に迎え入れることができないのであれば入れるべきではありませんでした。
それを直視したところで今からできることは限定的ですが、今の日本はまだそこから学べます。
※2023年7月1日付「Le Monde」 モントルイユ(Montreuil)市で急進派左翼やアナキスト・グループが暴動を呼びかけ、警察署襲撃を図ったことを報ずる「ルモンド」。
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