松沢呉一のビバノン・ライフ

テレビ局の検証番組に欠けている視点—ジャニーズ時代の終焉と新時代の幕開け[14]-(松沢呉一)

日本テレビに忖度した(?)田中東子・東京大学大学院教授のコメント—ジャニーズ時代の終焉と新時代の幕開け[13]」の続きです。

 

 

現実とずれた田中東子・東京大学大学院教授のコメント

 

vivanon_sentence2番目のパート「ジャニーズ事務者と日本テレビとの関わりに対する田中東子・東京大学大学院教授のコメント。

 

 

ヒアリングの中でひとつ気になったのが、「芸能人としての役割を果たしてくれればいい」という発言がありましたが、この発言からは芸能人をあたかも商品や物のように考えていて、その人たちが人権侵害されているとか、どのような労働環境で働いているのかといったことについて、テレビ局の側がですね、ほとんどこう尊厳をきちんと考えていなかったのではないかというところが非常に気になりました。つまりテレビに出て視聴率を稼いでくれさえすればいいと。そして人としてきちんと対応してこなかったのではないかというふうに考えます

 

 

前々回書いたように、「芸能人としての役割を果たしてくれればいい」という発言は、田中東子教授のように悪い意味で捉える人がいることは想定できます。できるがゆえに、とくにおかしな発言ではない旨を説明しました。

忙しいタレントは収録が終わればすぐさま次の現場に移動し、スタッフが腹を割った会話を交わす機会はなかなかないことを踏まえれば事務所内のことなど知ったことではなく、「芸能人としての役割を果たしてくれればいい」になると思うのですが、告発本や「週刊文春」の報道とその裁判があったのですから、接点があるか否かと無関係に、メディアに関わる人間であれば関心を抱いてしかるべきです。

「芸能人としての役割を果たしてくれればいい」として、それらに関心を抱かなかったとしたら、そこには別の理由が存在しているはずです。

しかし、田中東子教授は、「芸能人としての役割を果たしてくれればいい」という発言自体が人間としての尊厳を軽視しているように考えているとしか思えません。

大学教員が週に一回の授業で顔を合わせる学生が、バイト先でセクハラをされていたことが発覚した時に、そのことに気づかなかった事情として、「学生としての役割を果してくれればいいとしか思っておらず、学外のことに関心がありませんでした」と言ったら、「学生をあたかも商品や物のように考えていて、その人たちが人権侵害されているとか、どのようなバイト環境で働いているのかといったことについて、尊厳をきちんと考えていなかったのではないか」と批判しますかね。

するかもしれないけれど、学生からの相談があったわけでもないのに、教員が学生の学外の行動まで介入し、管理することの方が人権侵害だとは私は思います。

 

 

情報を得るふたつのルート

 

vivanon_sentence

TBSにせよ、日本テレビにせよ、検証番組できれいに分けて説明していたわけではないですが、ジャニー喜多川の行為に対するテレビ局の姿勢は、「情報を得ていたか否か」において、ふたつの側面からの検証がなされるべきです。

ひとつは、「テレビ局が起用しているタレントの事務所内での出来事について察知できていたのかどうか」。これについては、その接点において気づくことはほぼなかったと言ってよさそうです。

もうひとつは、「仕事上の接点とは別に、情報を得ていたのか」です。社内で流れる情報が耳に入ることもあるでしょうし、外部から情報を得ることもあるでしょう。本人たちの言い分では噂レベルだとしても、多くの局員が知ってました。

繰り返しになりますが、ここがジミー・サヴィル事件におけるBBCと日本のテレビ局との大きな違いです。ジミー・サヴィルはBBCが世に出した存在と言ってよく、BBCで作られた接点によって対象が選ばれ、しばしばBBCの敷地で犯行がなされています。そのために、被害者以外に、一部の出演者やスタッフは気づいていました。

対して、日本のテレビ局は、ジャニーズ事務所の数ある取引先でしかなく、それぞれの局のそれぞれの局員は知る契機がなく、しかし、告発本や「週刊文春」、その裁判という形で、外部からの情報は得やすかったわけです。

 

 

取材が難しかったはずがない

 

vivanon_sentence元情報番組プロデューサーがこう言ってます、

 

刑事事件になっていない性犯罪を取材。報道することは、取材網を駆使してキャンペーン的にでもやらない限り、現実的ではないと思った。

 

証拠となる音声や映像、あるいは身体への傷や打撲などの診断書がない限り、目撃者のいない場で行われる性犯罪一般について言えば、たしかに報道することは難しい。草津町の虚言者のような例もありますから、慎重にならざるを得ないのです(あの場合は、開放的な町長室を確認すれば相当にポンコツじゃなければすぐさま疑えましょうが)。

 

 

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