松沢呉一のビバノン・ライフ

トーマス・ロックリーの詐術が次々暴かれる—アラリック・ノウデ著『リアル・ヤスケ』-(松沢呉一)

「UBIソフト乗っ取りのため、テンセントが弥助を推した」説—納得できる点・納得できない点」の続きです。

 

 

「アサシン クリード シャドウズ」に関わった「専門家」たち

 

vivanon_sentenceこれまでに名前が上がった人物のうち、「アサシン クリード シャドウズ」に関わった「日本の専門家」で名前も顔も自ら出していたのはシュミット堀 佐知くらいか。この人はダートマス大学の准教授。専門は日本文学と日本文化。

おそらく彼女はシナリオの段階でチェックしただけだろうと思われます。しかし、自分が関与したゲームがデタラメなのは名誉に関わりますから、トレーラーを観ても黙っていたのは解せず、専門らしき衆道以外の日本には興味も知識もないのでしょう。

すでに説明したように、ハシモト・カズマは本人が関与を否定していますが、まともに日本語が理解できない翻訳家であり、日本語が理解できるなら虚言癖だとしか思えないので、否定の言葉も信用ができない。この人物ならなんのチェックもできないでしょう。

こんな人間が働いていたのですから、スウィートベイビーの質がよくわかります。無能すぎて解雇されたのかもしれないですが。

トーマス・ロックリーも「アサシン クリード シャドウズ」に関わった「専門家」ではないかと、よく名前が出ます。つながりがあるのは間違いないとして、内容にまで口を出したかどうかは不明です。前にも説明したように、全面的にトーマス・ロックリーの創作物に依った場合、原作料を支払うのが筋であり、UBIソフトはそれを避けるために、距離を置いたのではなかろうか。

しかし、参照したことは間違いなく、ここが崩れると、すでに綻びている「史実に基づいている」「日本の戦国時代を学べる」との宣伝文句は完全破綻します。

✴︎ダートマス大学のサイトよりSachi Schmidt-Hori

 

 

論文の体をなさないトーマス・ロックリーの査読付き論文

 

vivanon_sentence

トーマス・ロックリーは歴史の専門家ではなく、英語の教員でしかないことは、彼の主張が間違っていることの決定的な証拠にはならないですが、自身の未発表の文章を引用するなど、Wikipediaのルールに反して、自己アピールに利用するのは研究者(当時は大学教員ではありませんが)、学者としては信用できない。物書きとしても、Wikipedia利用者としても失格です。

創作においても、事実であったと誤解させるような出し方をすべきではなく、とくに実在する(実在した)場所、実在する(実在した)制度、実在する(実在した)人物を登場させる場合は慎重であるべきなのは、「『親なるもの 断崖』はポルノである」で見た通り。

まして論文であれば、推測部分と事実の区分はすぐにわかるようにしなければならないわけですが、そこもいい加減。

さらに日大の査読を受けたはずの論文でさえ、論文の体をなしていないという指摘がなされています。

最近まで存在を知らなかったのですが、2021年に東京外語大を卒業し、現在はオンラインで日本語教師をやっている直人という人物が、今年の5月からトーマス・ロックリーについてのファクトチェックをスタート。以来、散発的にトーマス・ロックリーに言及し続けています(すべて英文です)。

10月2日付「トーマス・ロックリーの2016年の論文における疑わしい記述–パート1(Questionable Statements in Thomas Lockley’s 2016 Paper – Part 1)」では、今現在、日本大学法学部図書館でのみ読むことが可能なトーマス・ロックリーの2016年の論文ヤスケの物語:信長のアフリカンリテーナー(“The Story of Yasuke: Nobunaga’s African Retainer)」(2016)を日大法学部に行って入手して、その欠陥を明らかにしています。

通常、論文では引用元のページ数や章タイトルを添えることで確認しやすくするものですが、この論文ではタイトルしかないため、直人さんは出典に目を通し、引用された複数の文章が存在せず、むしろロックリーの主張に反する記述まであって、そんな論文が日大では査察を通っていることに愕然とします。

この件はさらに続くようですので、また取り上げるかもしれません。

 

 

next_vivanon

(残り 1197文字/全文: 2976文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ