ノーベル文学賞で顕になった韓国の過剰な表現規制はK-POPにも及んでいる—韓国のポップスに浸ってみた(13)-(松沢呉一)
「韓国民が金を出さないK-POPを日本に押し付ける「Kコンテンツ戦略ファンド」—韓国のポップスに浸ってみた(12)」の続きです。
祝・ハン・ガンのノーベル文学賞受賞
韓国が国を挙げて熱望していた平和賞以外のノーベル賞をついに受賞、おめでとうございます。
欲しがっていたのは「物理学賞」「化学賞」、次点で「生理学・医学賞」でしょう。たしかに平和や文学に優劣をつける際の曖昧な恣意性みたいなものは拭えず、「物理学賞」「化学賞」「生理学・医学賞」との間には一線がありますが、今の時代の科学分野は難しすぎて、解説されてもどのみち理解できないです。「経済学」ははなっからピンとこないですし。
だからまだしも理解できる上に、権威と無縁なイグノーベル賞の方が私は好きです。ノーベル賞も似たようなものだと思って、受賞したらともあれ喜んでおけばいいんじゃないですかね。宝くじみたいなもん。
では、ハン・ガンのノーベル賞は国家が税金を投下し、企業が投資した結果なのでしょうか。そういう見方はハン・ガンや文学、芸術、表現に失礼です。
現実には、京畿道教育庁がハン・ガン作品『菜食主義者』を「青少年有害性教育図書」に指定して小・中・高校図書館で廃棄を命じていたことが韓国で問題になってます。その結果、廃棄したのは1校だけだったことをもって、京畿道教育庁は強制はしていないことの証拠と弁明しています。強制か否かが問題ではなく、有害と認定したことが問題ですから、見え透いた言い訳です。
とは言え、この指定によって、書店で売ることができなくなるわけではなく、一般の図書館に置かれなくなるのではないですから、中学生でも高校生でもアクセスできます。学校図書は教育現場独自の基準があってもしゃあないと思うのですが、これに限らず、韓国では表現に対する規制が張り巡らされています。
ハン・ガンを巡る左右対立
朴槿恵政権時代に、ハン・ガンをブラックリストに入れていたことも浮上。韓国にとっての暗部である光州事件を取り上げたためのようです。
こちらは「国民の力」政権時代のこと、対して「青少年有害性教育図書」指定は保守政権のことだったため、恒例の敵対勢力叩きになってくるわけですが、政党を問わず、韓国では表現に政治が介入することが恒常化してきたことを直視すべきでしょう。
これはK-POPを税金でバックアップすることの表裏の現象であって、どっちも文化への政治介入であり、サッカーへの政治介入ともつながります。
韓国では憲法第21条で「言論・出版及び集会・結社の自由」が保証され、第22条で「学問と芸術の自由」が保証されていますが、第37条で「国家安全保障・秩序維持または公共福祉のために国民の自由と権利は制限することができる」とされており、憲法上の構成は日本と同じです。日本は日本で問題がありますが、韓国は制限がさらに過剰に見え、国内でも批判が出ています。
(残り 1442文字/全文: 2711文字)
この記事の続きは会員限定です。入会をご検討の方は「ウェブマガジンのご案内」をクリックして内容をご確認ください。
ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。
会員の方は、ログインしてください。
外部サービスアカウントでログイン
Twitterログイン機能終了のお知らせ
Facebookログイン機能終了のお知らせ