『しもつかれガール』 ゲロみたいでまずそう・・・田舎の同調圧力の象徴か?地方料理の地方発映画 (柳下毅一郎) -2,856文字-
『しもつかれガール』
監督・脚本 遠山浩司
撮影 松井宏樹
出演 谷村美月、徳永えり、倉田大輔、細山田隆人
「栃木市に行きたくなるショートムービー」である。わかったよ、もう。こうなったらあらゆる地方発映画を見たおして、四十七都道府県完全制覇を成しとげてくれる。で、これ、どういう話かというと「生まれも育ちも栃木の女、東京から来た女、栃木に戻ってきた男の恋の行方。それは、栃木的ラブストーリー」栃木的ラブストーリーってなんだよおおおお! 餃子的な包み込むような愛なのか? それとも空っ風のように冷たい愛の現実なのか?
さて物語は東武日光線新栃木駅に滑り込もうとする終電車からはじまる。お洒落をしてブーケを手にして一目で結婚式帰りとわかるあいこ(谷村美月)とファイルを手に眠りこけている里恵(徳永えり)。目が覚めると地の果て新栃木駅……で呆然とする里恵。しかたなく、落としたファイルを拾ってくれたあいこに連れられ、いきつけの居酒屋に出かける。そこで待っているのが、めざとくブーケをチェックしたあいこが「じゃあ今度は……」と水を向けると「ならいいんだけどね……」と浮かない顔をするというわかりやすすぎる伏線を張っていた相手こと鉄雄(倉田大輔)である。
里恵を連れてきたあいこがさっそく出したのがしもつかれ、「鮭の頭と野菜の切り屑など残り物を大根おろしと混ぜた」 栃木の郷土料理である。見た目がたいへんよろしくないので里恵も「……ゲロみたい……」と手をつけようとしない(ところでこの「しもつかれ」がどういう料理であるかというのをぼくはこの原稿を書くために検索してはじめて知ったわけで、映画のタイトルにもなっているのに最後まで一言もなんの説明もないというのはいかがなものか。これでは「ゲロみたいでまずそう」ということしかわからないのではないか!)。あいこはしもつかれ好きだが鉄雄は大嫌い。
「好き、わたしは好きだな、てっちゃん」
「大嫌い、嫌いだよ」
はいはいわかったわかった……仕事を聞かれた里恵、「下北沢近辺のタウン誌の編集」と答える(しかし、下北の雑誌の編集者がどこに住んでいたら日光線で寝過ごして新栃木まで行ってしまうのだろうか)。「あ、ぼくも二、三年前まで下北沢に住んでたんですよ」と言う鉄雄。
「鉄雄、大学院出て向こうで研究してたの」
「へえ、なんで帰ってきたの?」
「まあいろいろあって……」
この映画、会った瞬間に人の触れられたくない事情に土足で踏み込んでくるデリカシーのない人間ばかりが出てくるなあ。こうして二人は幼なじみだがつきあってはいないでおたがいウジウジしている少女漫画的関係だと説明されます。意に染まぬ事情で栃木に帰ってきた鉄雄が東京に帰ってしまうのではないか……とあいこはいつも不安に思っている。翌日予定がないという里恵を「蔵の街案内してあげれば?」と言う居酒屋のマスター。やっと観光映画らしくなってきた!
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