柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『たこやきの詩』  激安「ジェネリック家電映画」。すべてが貧乏すぎるこの世界 (柳下毅一郎) -2,569文字-

FireShot Screen Capture #053 - '映画『たこ焼きの詩』公式サイト' - takoyakinouta_com_index_php

 

たこやきの詩

監督・脚本 近兼拓史
出演 とみずみほ、古和咲紀、サニー・フランシス

 

face これまでにさまざまな映画に出会ってきたのでもはやたいていのことでは驚かないのだが、それでも「ジェネリック家電映画」と言われたときにはさすがに困惑した。そもそも「ジェネリック家電」ってなんだ? 要するに枯れた技術で安価に作ったノーブランド家電のことなのだろうと思うわけですが、そんなジェネリック家電メーカーのひとつである山善(YAMAZEN)が「ジェネリック家電劇場」と称してジェネリック家電をフィーチャーしたショートフィルムをyoutubeで公開。その特別編「たこやきの詩」が好評を得たと言うことでついに劇場映画へ! うーむ……映画も安くなった安くなったと言ってはいるけれど、価格破壊もここまで到達してしまったのか、というわけで激安ジェネリックたこ焼き映画の中身はと言えば……

 

 

 

舞台は関西地方のどこか。澤田みほ(とみずみほ)と花梨(古和咲紀)は明るく楽しい母子家庭である。今日も今日とてエアコンのリモコンを操作する花梨の姿から映画ははじまる。

「母さん、このエアコン完全に壊れてんで~」
「わかってる。もうちょっと余裕ができたら買うから、我慢して」
「そのセリフ、もう聞き飽きたわ~」

 というわけで貧乏暮らしを続ける澤田家なのだが、実は父親は元DJで、ダンサーだったみほと結婚したのだが(このダンスってのが実に……)、女遊びで迷惑をかけたあげくに、子犬を助けようとして車に轢かれて死んでしまったのだという。以後、母はインド人(サニー・フランシス)が経営するタコ焼き屋「やん!」の店長として日々タコ焼きを焼いて暮らしを支えている。晩ご飯ももちろんたこ焼き。ただし貧乏なのでタコ抜きだ。

山善(YAMAZEN) たこ焼き機(着脱プレート式) SOPX-1180(R) レッド「お母ちゃん、これタコ入ってへんから、タコ焼きやのうて、ただの焼きやなあ」
「あんな、ここにはうちらの幸せが詰まってんねん。せやからこれは多幸焼きや」

 お、おう……ちなみにこの家庭用タコ焼き器もYAMAZENのジェネリック家電 と思われます。

中学校の女子野球部ではセカンドとして活躍する花梨だが、クラスメートとアカペラ・グループPermanent Fish (知らん)に夢中になるごく普通の少女である。クラスメートからPermanent FishのDVDを借りるものの、家にはDVDプレーヤーがないので見られない。

「母さん、いい加減DVDプレーヤー買うてえな~」
「うちは父さんが残してくれたビデオで充分やで」

いやいまどきそれやとレンタルも新作見られへんで! 花梨の修学旅行の積立金が足りないのを知ったみほ、大車輪で一日中たこ焼きを焼きまくる。一日鉄板の前に突っ立って焼き続けるみほを哀れに思ったインド人オーナーは扇風機を設置して、クーラーの冷風が彼女の元に届くようにする。さすがはジェネリック家電! まあそんなわけで毎日汗だくで働いて、帰りにはスーパー玉出で食料品を買い、タコ抜きタコ焼きを食べさせる。一日立ちっぱなしで中疲れ切った母の脚のマッサージにいそしむ花梨なのであった。

それにしても一日中タコ焼きを焼きつづけ、店長待遇ながら玉出の特売品しか買えないとかどれだけ薄給なのか。扇風機でごまかされているが、「たこやき やん!」にもブラック企業疑惑。Permanent Fish本人が出てきてサインもらったりして浮かれているが、そんなことでごまかされていいのか!(それにしても、こいつら誰なんだ! ほかにもサンテレビのアナウンサーをはじめ関西ローカルで微妙に知られているとおぼしき人たちのカメオ出演が続いて、ひどく微妙な思いにとらわれる)まあすべてが貧乏すぎるこの世界ではそれもまた許されてしまうのかもしれないが……

 

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tags: とみずみほ サニー・フランシス ジェネリック家電映画 ジェネリック映画 古和咲紀 近兼拓史

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