『僕だけがいない街』 監督と脚本家は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』千本ノックからやりなおしな!(柳下毅一郎)
→公式サイトより
『僕だけがいない街』
監督 平川雄一朗
脚本 後藤法子
撮影 斑目重友
音楽 林ゆうき
出演 藤原竜也、有村架純、石田ゆり子、及川光博、杉本哲太、林遣都、福士誠治、鈴木梨央、安藤玉恵
原作は「このマンガがすごい!」で三年連続ランクインの人気コミックで、アニメも高く評価されたんだそうである……というのは、この映画を見るとなんで!?!?という感想しか出てこないからだ。この物語、主人公の藤沼悟(藤原竜也)は「リバイバル」という特殊能力の持ち主で、重大事件が起こると過去へ戻ってやりなおすことができる。時間が巻き戻されたときには周囲を見て、あーこの子供が事故に遭うのか! とさくっと判断して子供を助けたりするそんな日常。そんなすごい能力があるくせに漫画家志望でピザ屋の配達バイトをしている地味な男だ。そんな彼、ある日家に帰ると母親が包丁で刺されて死んでいた。外には怪しい人影。追いかけたが見失い、全身血まみれのまま立ち尽くす。おりしも通報で駆けつけてきた警察。このままだと自分が犯人にされてしまう! と逃げ出した悟、はっと気づくと小学生になっていた。今は1988年、18年昔に巻き戻っていたのである。18年前の事件--同級生が巻き込まれた連続誘拐殺人事件を解決しなければならない……ってなんだよこれ!
あのさー、そもそもなんでそこで逃げないとならないんだよ! 母親を殺したと疑われる理由なんか何ひとつないっつーのに。だいたい重大事件のときに巻き戻されるって、世の中でどれが重大事件で、どれは巻き戻すまでもない些少事件って誰が決めるんだよ! そもそも母親が殺された件だって、母親が誘拐未遂を目撃した(ことで誘拐を阻止した)ことが原因なわけで、(なんでそれで母親が殺されるのかという問題はあるが)、そこまで遡ればいいはずなのである。なんなのこのご都合主義は……
……で、原作読んでみてわかったんだけど、これメインとなるのは1988年、小学生時代に起きた事件を解決しようとする部分で、「リバイバル」の設定はそのための道具なのね。だから「リバイバル」の設定について突っ込んでたオレが悪かった。しかしそれならこんな妙な能力の設定しないで、母親が殺されたときにタイムスリップしちゃった……でいいんじゃないかと思うんだがねえ。
さて、ともかくタイムスリップで過去に戻った悟。10歳の肉体に28歳(藤原竜也)の精神が入っているので、藤原竜也の声で内心をすべて喋りまくる。なんと必然性ある副音声映画。まあ副音声映画に必然性が必要なのかどうかはともかくとして。悟はすっかり忘れていた過去を思いだす。同級生の雛月加代(鈴木梨央)が殺害され、その犯人として悟ともよく遊んでくれたお兄さん(林遣都)が逮捕されていたのである。加代を救い、真犯人を見つければ、母親も救うことができる! 冷静になってもらうとわかるんだけど、これちっとも話がつながってないんだよな。過去と現在のリンクがどうなっているのかさっぱり理屈がないのだ。悟は加代を観察するうちに、彼女が母親から虐待を受けているのではないかという疑いを抱く。そのことを教師(及川光博)に相談すると
「うん、オレも気づいていた。ただ今は時期が悪いんで、どうすべきか児童相談所と相談してるんで、サトルもちょっとだけ待ってくれ」
というわけで積極的に話しかけて加代と仲良くなった悟、自分の誕生会に誘う。なんとその日は加代の誕生日でもあった。誕生会をやることで、殺されるはずだった日を生き延びることができた(ところで、なんでこの日に殺されるはずだったことを覚えているのかという問題があるのだが、それは原作を読んでわかった。そんな描写、映画ではなかったよ!)。これで助かった と思ったら翌日加代は何者かに殺されてしまう……失敗してしまった! 悟は28歳の2006年に戻って、警察に追われるがまま逃げる……
ちょっと待って欲しい。もしも「リバイバル」が事件を阻止するためなら、2006年に戻る必要ないんじゃないの? 小学生時代をくりかえせばいいんじゃないの? これ、「リバイバル」する理由もタイミングも完全に物語上の都合だけで、物語の中の論理がまったくない。作者の都合だけであっちこっちに飛ばされるんだから、そりゃあ悟もグレたくなるわ、てなもんである。
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tags: SF タイムトラベル 副音声映画 及川光博 安藤玉恵 平川雄一朗 後藤法子 斑目重友 有村架純 杉本哲太 林ゆうき 林遣都 石田ゆり子 福士誠治 藤原竜也 鈴木梨央
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