柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『サブイボマスク』どんだけ頭がお花畑なのか。ポジティブ脳のでたらめさを感じるばかり。そりゃあシャッターも閉じるよね (柳下毅一郎)

公式サイトより

 

 

サブイボマスク

監督 門馬直人
脚本 一雫ライオン
出演 ファンキー加藤、小池徹平、平愛梨、斉木しげる、いとうあさこ、武藤敬司、大和田伸也、泉谷しげる、溫水洋一

 

face ファンキー加藤というお笑い芸人なのか歌手なのかよく知らない人がマスクをかぶってスーパーヒーロー「サブイボマスク」となり、シャッター商店街を活性化する! 大分県全面協力! ああもうこういう映画何本見たことだろうか。てかこういう映画見せられるたびに希望よりも絶望のほうが勝ってくるんですが、大分県大丈夫なんですか……こんなもんにつきあうとか、かなり末期的にヤバい感じがするわけですが……

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本作、製作がDLE(Dream Link Entertainment)。この会社、実はフラッシュアニメの製作とキャラクタービジネスをやっているところである。ほら、シネコンに行くと映画の上映前に頼んでもいないのに延々と見せられるクソ面白くもないフラッシュアニメ(「鷹の爪団」とか「貝社員」とか)があるでしょ? あれ作ってるところ。

誰のためにあんなものを上映してるのかさっぱりわからないんだが、まあ利権だよな利権。そうやって認知させたキャラクターを使って商売しようというんだろうが、とうとうそのオリジナルキャラクターで映画まで作ってしまった。誰がそんなものを見たいかは知らないが、キャラクタービジネス的には意味があるのだろう。すでに映画はキャラクターを認知させるための材料でしかない。見たかろうが見たくなかろうが、ベルトコンベアで映画は作られてゆく。役員名簿を見ると利権商売とはどういうことかなんとなく感じられるあたりがアレである。

さて、その利権構造にがっちり組み込まれたおかげで主演作を得たファンキー加藤、「お笑い芸人なのか歌手なのかよく知らない人」と書きはしたものの、実は例のゴシップ騒動のおかげでこの人がファンキーモンキーベイビーズというバンドの人だということくらいは知っている。で、その人が歌うのが暑苦しいようなポジティブ前向きソングで、その熱さがキモいレベルで鳥肌が立つくらいという。そしてその歌を聴いた人たちが感化されて商店街のシャッターがあがり……と書いているだけで帰りたくなってくるのだが、恐ろしいことにこれ本当にこういう映画で、さらに恐ろしいことに中身がほぼそれだけなのだ。これならまだ未来シャッターのほうが説得力あるよ! あっちでは少なくとも心のシャッターは開いたわけだしね……

 

 

映画がはじまると都会から帰ってきた美人ユキ(アモーレ平愛梨)が登場。東京でモデルとして活動していたが、浮気性の旦那に愛想を尽かして離婚、娘を連れて故郷の「道半町(みちなかばまち)」に帰ってきたのだった。

「空気がおいしい。ロハスな臭いね」
「これはね、ロハスってんじゃなくてただの田舎なの。ここはなんでも勝手にオーガニックな町なの!」

 当の道半町、隣町にドリームタウンという巨大ショッピングモールができたので商店街はシャッター通りとなり、若者は働く場所もなくみな生活保護を申請している。ところでこの映画、出てくるのがシャッター商店街と田んぼ、それに役所のほぼ三ヶ所だけで、それぞれがまったくバランスがとれていないから困る。一面の田んぼの中にぽつんとあるシャッター商店街ってなんなのか? そんなシャッター商店街で、今日も一人熱く歌う男がいた。ニワトリのマスクをかぶって「みんな、笑ってるか~」と叫ぶ男、それがサブイボマスクである。

サブイボマスクこと春雄(ファンキー加藤)には、プロレスラーだった父(特別出演武藤敬司)がいた。商店街でマスクをかぶって「商店街プロレス」をやり、町の人々を熱くさせていた父。その父の残した家訓が、

「悪口を言わず、みんなに優しく、みんなを笑顔にする人間が最強」

ギルバート・グレイプ [DVD]  そうだ自分もそんな人間になろう。そのためには……みんなを感動させなきゃならない! 感動なくして笑顔なし! というわけでみんなに感動の押し売りをすべくキモいレベルのポジティブ曲をシャッター通りで熱唱する。これぞ感動ファシズム。聞いているのは春雄の弟分である権助(小池徹平)。この権助、「ピュアな心を持つ地元のエンジェルボーイ」とキャラクター紹介にある。そう、つまり頭がピュアな人である。実はこの映画、『ギルバート・グレイプ』にインスパイアされているらしい。つまり小池徹平がレオナルド・ディカプリオ! ファンキー加藤がジョニデ! いやよりによってあの映画のデカプーに挑戦しようとはさすがに小池徹平もいい度胸過ぎる。そしてその微妙すぎるピュア演技も相当なものなのだが、それが「自閉症」とされてしまう結末には開いた口がふさがらない。誰がどう見たってこれは自閉症じゃないだろうし、(彼を最終的に収容することになる)「社会福祉法人 太陽の家」にもたいがい失礼じゃないのか。障害者をきちんと障害者として描くこともできないで、安っぽい感動を押し売りするために利用するなと言っておきたい。

 

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tags: いとうあさこ ファンキー加藤 一雫ライオン 地方映画 大分県 大和田伸也 小池徹平 平愛梨 斉木しげる 武藤敬司 沖縄国際映画祭 泉谷しげる 門馬直人 溫水洋一 町おこし

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