『青空エール』 どいつもこいつも青空ばかりでもはや青空地獄……青空映画の出口はどっちだ? (柳下毅一郎)
→公式サイトより
『青空エール』
監督 三木孝浩
原作 河原和音
脚本 持地佑季子
撮影 清久素延
音楽 林ゆうき
出演 土屋太鳳、竹内涼真、葉山奨之、小島藤子、平祐奈、志田未来、上野樹里
映画館で公開予定作品のチラシをおもむろに眺めていると、どうにも既視感にとらわれてしょうがない。『四月は君の嘘』、『にがくてあまい』、『君の名は』……どれも青空をバックに若い男女が背を向けあって立っている構図ばかり。映画の中身はもちろんなんの関係もないのだが(そもそも『君の名は』はSFだし、『にがくてあまい』は恋愛映画ではないはずである)、どうして図像としてこう同じようなものになってしまうのか。どう考えても観客以上に作り手、とりわけ配給・宣伝サイドの考え方が硬直しているからこういうことになるのである。どいつもこいつも青空ばかりでもはや青空地獄……というところで登場した本命が『青空エール』。監督は『ソラニン』、『ホットロード』、『アオハライド』と青空映画ならおまかせの三木孝浩。こっちは背を向け合うんじゃなくて男女が向かい合ってるが、それで逃れられると思ったらおおまちがいだ! 青空そのものがモチーフになってるわけで、最初から最後まで青空また青空が続く本物の青空地獄、出口はどっちだ?
舞台は札幌。主人公のつばさ(土屋太鳳)は引っ込み思案な高校新入生。だが彼女には夢があった。子供のとき、テレビで見た甲子園大会の応援風景、青空に飛んでいく音を聞き、「高校に入ったら吹奏楽部に入って甲子園で野球の応援をする!」と夢を抱いて入学してきたのである。ところが同級生の山田大介(竹内涼真)が野球少年。
「じゃあオレがつばさを甲子園に連れてってやるから、そこで応援してくれよ」
と約束する二人。約束をはたすべく、つばさは吹奏楽部に入部を申し込むが、札幌北翔高校の吹奏楽部は野球部以上の超名門で、初心者のつばさなどお呼びでない。一年生で選抜されたエリート水島(葉山奨之)からは
「足手まといがいるとみんなの迷惑になるんで、さっさと辞めてくれる?」
と言われる始末。はたしてつばさの未来は……?
なーんてね。そんなの驚異的な努力で追いつこうとする土屋太鳳に周囲がみんな感化されて頑張るに決まっているのだった。原作は河原和音の同名コミック。「応援したいなんてハンパな気持ちで真面目に全国目指してる自分たちと一緒にやってほしくない」と言われたつばさ、心を入れ替えて全国大会である「普門館」を目指して練習に打ち込むことになる。で、大介くんとはお互い同士で頑張ろうと励ましあう友人同士になるんだけど……さてここにひとつ大きな問題があるのはおわかりだろうか? 大介くんとの恋愛? いやそれは誰もが思うようにまったくなんの問題でもない。つまり、つばさの夢は「甲子園で高校野球の応援をすること」であって、その夢と吹奏楽部のコンクールとのあいだにはなんの関係もないのである。つばさの吹奏楽部での超人的頑張りと、大介くんの野球部での頑張りとが平行して進むだけでいっこうにクロスしないわけである。まあ、漫画なら「お互いに頑張りあったね」でいいかもしれないんだが、映画だとね……
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