柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『校庭に東風吹いて』 低予算映画専門のなんでも屋と「良心的映画」と地方活性化の厄介な関係 (柳下毅一郎)

 

 

『校庭に東風吹いて』

監督 金田敬
原作 柴垣文子
脚本 長津晴子
撮影 飯岡聖英
音楽 山谷知明
出演 沢口靖子、岩崎未来、向鈴鳥、村田雄浩、星由里子、遠藤久美子、柊子、ひし美ゆり子、仁科貴

文化庁文化芸術振興費補助

 

face製作のゴーゴービジュアル企画は『ガラスのうさぎ』をはじめ、いわゆる「文部科学省推薦」の良心的映画を作っていたところで、当然ながら各地の「映画センター」(左翼系の自主上映団体)ともつながりがある。地方の公民館などを利用したノンシアターの上映網である。最近では実写作品にも乗りだしたみたいで、1959年に発生した米軍機の墜落事件を元に『ひまわり ~沖縄は忘れない あの日の悲劇を~』なんて映画も作っている(能年ちゃん出てる!)。本作は監督金田敬ーーって愛染恭子のエロ映画とか長澤奈央主演の『春琴抄』とか作ってた監督だよな? いったいどこからーーと思ったら2010年にゴーゴービジュアルで『アンダンテ ~稲の旋律~』という映画を作っていたらしい。まあそんな感じで低予算映画専門のなんでも屋と「良心的映画」との関係ができたわけだが、ここに加わったのが映画24区! 詳しくは乙女のレシピのレビュウを読んでいただきたいが、要するに地方活性化のための映画を中心に誰のためなのかわからない映画を作ることで金を稼いで俺の仕事を増やしてくれる組織なのである。こういうところと上映組織が結びつくと本当、厄介なことになるんだよなあ。なんかいろんなものがひとつにつながりつつあるようで……

さて本作で主人公を演じるのは沢口靖子。なんと九年ぶりの映画出演だそうである。だが大仰なセリフまわしは健在でーー『vsビオランテ』のころから少しも変わらぬ大根ぶりで感じるのは懐かしさばかり。一方でやたらと滑舌の悪い役者も数名見受けられ、このバランスの悪さはなんなのか……まあ監督が何もコントロールできてないってことなんでしょうが。ともかく新学期がはじまり、三年一組の担任となった三木先生(沢口靖子)、自転車を磨きなおして自転車で登校するという。家族のあきれ顔をあとに自転車に乗り、坂を下り、線路の脇を走り、山から街へ、川を越え……ってどんだけ走るんだよ! なんと自転車で一時間半かけて山奥から町まで通っていたのだった! いやこれたぶん原作者の経験なんだろうけど、いくらなんでも……どうやら三木先生、前勤務先でなんらかの問題を起こして、ようやく雇ってもらえた先がここだったということみたいなんだけど、その「前勤務先での問題」が最後まではっきりしない。この映画、一事が万事でそういうことが多すぎるのだ。

 

 

さて希望に満ちた三年一組の教室だが、問題生徒が二人いる。一人は場面緘黙(かんもく)症のみちる(岩崎未来)。不勉強にて知りませんでしたが場面緘黙症というのは特定の場面でだけ口がきけなくなってしまう病気で、家の中では喋れるのに学校に来ると人と口をきけなくなってしまったりする。それ単なる人見知りと違うんか? と思うわけですがれっきとした病気であるらしい。ところでみちるはいっさい口が聞けないどころか授業中は緊張病のようにかちかちに固まってノートもとれず教科書すら開けないでいるようなんですが、それはさすがに無理に登校させないほうがいいのでは……もう一人は遅刻と保健室登校が常態になっている純平(向鈴鳥)。実は両親が離婚、母子家庭なのだがアルバイトに疲れた母親からはネグレクト気味なのだった。そんなクラスをまとめようと三木先生は奮闘するのであったが……

 

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