柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『猫は抱くもの』 ・・・本年度猫プロイテーション映画大本命!しかし猫が猫ではなくイケメンによって表現されるし、エリカ様は等身大の役とか、ひたすらわびしくなるだけだし (柳下毅一郎)

公式サイトより

猫は抱くもの

監督 犬童一心
原作 大山淳子
脚本 高田亮
撮影 清久素延
音楽 水曜日のカンパネラ
出演 沢尻エリカ、吉沢亮、峯田和伸、コムアイ、岩松了、内田健司、柿澤勇人、ベッド・イン、LOVEACE

 

 

face 来ました本年度猫プロイテーション大本命! 元アイドルのアラサー女子沢尻エリカがロシアンブルーの猫“良男”とたわむれるストーリー、ただしこの猫は擬人化されており、吉沢亮が“良男”を演じる……というところで根本的な疑問。猫が猫ではなくイケメンによって表現されるなら、猫プロイテーションとしての意義はどこにあるのか? 驚いたことにこの映画、本物の猫はほとんど出てこないのだ! 猫好きは別にイケメンや美少女の猫まねを見たいわけではないだろう。猫プロイテーションいろはのいから大失敗である。エリカ様が吉沢亮のおなかをかいてやって吉沢亮が悶えるとかってなんか別なものを見せられてるような……で、見はじめたんですが猫擬人化以外にもいろいろ謎の要素が多くてですね……

 

 

さて、元売れないアイドルグループ、サニーズのメンバーだった大石沙織(沢尻エリカ)は今では地方都市のスーパーでしがないレジ打ちバイトの日々である。ときどき昔のことを知るファンに迫られたりするが、そういうときは無言で逃げるという得意技を持っている。スーパーでは誰とも親しくしないで孤高を保っており、自分をさらけだすのはスーパーの倉庫で飼っている猫、良男(吉沢亮)に話しかけるときだけ。良男は人語を解し、自分が人間だと思っている(チビ猫とはちょっと違う模様)。なのだが当然その言葉はエリカ様には届かないので、エリカ様の独り言に突っ込みを入れるというかたちで進行する。この場面、なぜか舞台上に実物よりも大きくしたすのこや段ボールの模型をしつらえての撮影。良男のサイズに合わせて小道具を大きくしているのか……と思いきやそこまで厳密なものでもなく、まあちょっと気分で大きいくらい。この映画、この「なんとなく気分で」が多すぎるんよ~ で、この舞台上で演じるシーンも、吉沢亮が猫役を演じる幻想場面だからなのかと思いきや、普通の現実に起こっている場面(エリカ様がカラオケBOXに出かけてヒトカラするとか)も演劇風に演出されていたり、まあ気分でやってみましたという感じ……あまり深く考えても意味はないらしい。で、妄想癖のあるエリカ様が延々と独り言をぶちまくり、吉沢亮の耳の後ろを撫でたり腹をかいたりして相手を悶絶させている。これ誰を喜ばすためのプレイなんだ……?

のちに語られるところによれば、二人の出会いはホームセンター。半額セールでたたき売られていた良男を沙織が買ったものの、ペット禁止のアパートに住んでいるので仕方なくスーパーの倉庫でこっそり飼っているということらしい。いろいろ問題あるような気がするんだがなあ……そんなある日、女子高生が万引きでつかまる。まったく悪びれない女子高生に呆れながらも、気になるのは保護者として呼び出された叔父さんゴッホ(峯田和伸)のことである。女子高生からお小遣いを渡されている気弱そうな男は、ズボンを黄色い絵の具だらけにしている。それを見たエリカ様、ゴッホ=後藤保の人生を勝手に妄想プロファイル。きっと猫と同じような色盲で、黄色しか使わない画家で、黄色く塗った掘っ立て小屋に住んで、売れない絵を描いている。猫にもキイロと名をつけて……これただの妄想だからね。その後、レジ打ちスピードで表彰されたことをきっかけに、本社の年下イケメン社員高橋(柿澤勇人)に誘われて、デートでハイキングに出かけると、山の上に妄想したとおりの黄色い掘っ立て小屋があり、そこからゴッホが出てくるではないか。どきっ! とするものの、現実にはスーパー店員と万引き犯の保護者というだけの関係なので、高橋に「汗かきましたね。ちょっと休んできませんか?」とシャワーを浴びる部屋へ行ってしまう。

そんなわけで人生好調だったはずの沙織だが、いつものようにJOY SOUNDでヒトカラを楽しんでいたところ、友人たちとやってきた高橋の会話を聞いてしまう。

 

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