柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『恋のしずく』 電通印のクールジャパン。文化庁とか地方自治体とかテレビ局とかクラウドファンディングとかいろんなところからお金をかき集め、ヒロインには元AKBなど用意いたしまして…

公式サイトより

 

恋のしずく

監督 瀬木直貴
脚本 鴨義信
撮影 岡田賢三
音楽 高山英丈
出演 川栄李奈、小野塚勇人、宮地真緒、中村優一、蕨野友也、西田篤史、東ちづる、津田寛治、小市慢太郎、大杉漣

 

電通の地方創生プロジェクト作品。『キスできる餃子』のところで指摘しましたがどうやら「地方創生ビジネス」が電通案件になってきたようで、電通製作の地方創生映画が次々登場である。本作は広島県東広島市発の日本酒映画。海外輸出も見据えて日本酒をテーマに据えてるあたりが電通印のクールジャパンと言えるかもしれない。監督は瀬木直貴、『カラアゲ☆USA』(大分県宇佐市)、『ルート42』(三重県)のほか滋賀県を舞台にした『マザー・レイク』なんて映画もある地方創生映画のプロ(日本中を流れ流れてその土地の映画を作る地方映画監督)である。過去に地方映画で実績をあげている監督を一本釣りして映画を撮らせるというあたりがさすがの電通スタイル。で、電通が文化庁とか地方自治体とかテレビ局とか個人(クラウドファンディングが二つも立ち上がってる!)とかいろんなところからお金をかき集めまして、ヒロインにはもちろん元AKBなど用意いたしまして、できあがったのが……

 

 

橘詩織(川栄李奈)は日本農業大学に通うワイン好きな女子大生。今日も今日とてブラインドで銘柄を当てまくるワイン通ぶりを発揮、ワイン界の重鎮であるイケメン朝比奈(蕨野友也)と飲んでいるが、相手がYSP(ヤリ・捨て・ポイ)で有名だと聞くと「活性型ALDH2でいきますか」とアルコールへの無類の強さを発揮、相手を酔いつぶして離脱する。そんな詩織、学校の実習で酒蔵に行かなければならないのだが、当然ワイン醸造所志望。ところが担当教官が「面倒だからあみだくじで決めたよ」と彼女の希望も無視して広島の酒蔵に実習を決めてしまう。日本酒だけは飲めない詩織は猛抗議するものの、決まってしまったことだからとしかたなく広島県東広島市西条の乃神酒造に向かう(西条は日本三大酒蔵のひとつだそうだが、地名としては「東広島市」になってしまうのが平成の大合併の残念なところ)。電車を乗り継いでたどりついて見ると

「えー? 今年って実習中止にしたんじゃなかったの?」

なんと中止にしたはずだったが酒造のあとをつがない息子莞爾(小野塚勇人)のせいで、間違って募集されてしまったのだという。呆然とする詩織。てかなんで酒造のあとをつがない人間が外部との交渉を担当してるのかさっぱりわからない。酒蔵の社長(大杉漣)は「まあ残念やったけどこれでも一杯」と自前の酒、鯉幟(広島県西条の金光酒造で作っている銘酒)を勧めるばかり。詩織はしかたなく、乃神酒造に酒造米をおろしているという農家の娘美咲(宮地真緒)のところに居候することになる。しかし居候したってなんら問題の解決にはつながらないわけで、そこはあみだくじ教授に相談するとかなんとかもうちょっとまともなことは考えられないのだろうか。まあ当然こういう映画なので人情家の大杉漣のはからいで酒造りの実習に参加できることになるわけだが。ここんところのやりとり、莞爾が適当な人間だということを示す以外なんの役にも立ってないというのがすごい。

そういうわけで美咲の実家で稲刈りの手伝いをしているところにやってきたのはライバル有重酒造の御曹司(中村優一)。詩織を見初めて

「あの若い子だれ?」

と旧知の美咲と話したことから美咲に飲み会をセッティングされることになる。日本酒は苦手だと言い張っていた詩織だが、御曹司有重某から純米吟醸の飲み方を教わると(単に冷やしてぐい呑みじゃなくグラスにしただけ)

「私、日本酒のこと、知ろうともしていなかった!」

とすぐに転んでしまう。たいへんチョロい展開だが、基本が日本酒PR映画だからしょうがない。そのまま翌日からは酒蔵で働くことになり、酒造りのあれこれが美しい画像で紹介される(そのわりにはあまり詳しく説明はされず、ざっくりしたイメージだけというところがクールジャパンぽい)。

 

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