柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『VISION』 スピ映画の女王 河瀬直美監督がカンヌ映画祭を狙い、ジュリエット・ビノシュを迎えて制作された、EXILE HIROのプロデュース作品は「ゆるふわスピリチュアル」

公式サイトより

VISION

監督・脚本 河瀬直美
企画協力 小竹正人
エグゼクティブプロデューサー EXILE HIRO
撮影 百々新
音楽 小曽根真
出演 ジュリエット・ビノシュ、永瀬正敏、岩田剛典、美波、森山未來、コウ、白川和子、ジジ・ぶぅ、田中泯、夏木マリ

 

face 河瀬直美がカンヌ映画祭を狙い、なんとジュリエット・ビノシュを迎えて制作した一品。それに乗ったのがEXILE tribeで、HIROさんがプロデュースで参加、岩田剛典とHIROさんが赤絨毯を歩けるか? となったのだがとんでもない大爆死でカンヌに行くどころか日本ですらビノシュが来ていたことをみな忘れているというとても悲しいことになってしまった。いやまあそれも無理はないが、さすがにこれはEXILE HIROさんのプロデュース能力に疑問符がつく。このゆるふわスピリチュアルはなあ……河瀨直美に言いたいことはただひとつ、せめて素数ゼミくらいはウィキペディアで調べてください!

 

 

そういうわけで登場するのはフランス人のエッセイストジャンヌ(ジュリエット・ビノシュ)、通訳兼ガイドの花(美波)とフランス語で喋りながらやってきたのはもちろん約束の地、奈良である。

 

「こういうところにくると過去か未来かわからなくなる……今が本当に今なのか……」

はじまったぞ……ジャンヌは「ヴィジョン」という特別な植物を探しに奈良の地に来たのだという。で、ぶらぶらお寺を参拝などしているところで山男の智(永瀬正敏)と出会う。「ヴィジョン知ってますか?」と訊ねられてもそっけない返事しか返さぬ智だが、そこは寡黙だがツンデレなので「千年前から生きている」と豪語する老婆アキ(夏木マリ)を「植物に詳しいから」と紹介する。ところでこう書いているとなんのことやらさっぱりだろうと思うが、河瀨直美の映画のポイントは登場人物がお互いに投げっぱなしのセリフが噛み合わないままに進んでいくところにある。アキと智の関係もまったく説明されないのだが、

「わしの年を知っとるか」
「知らん」
「千年ほど前、胞子が放たれたころ、わしは生まれた」
「胞子」

 っていや突っ込むところはそこじゃないだろ、っていうね。まったく意味不明のままなんとなくで進んでいく、これぞゆるふわスピリチュアル。河瀬直美こそスピ映画の女王なのである。ジャンヌはいきなり智の家に押しかけ

「しばらく住んでもいいですか? お邪魔はしませんから」

と初対面の男の家に強引にあがりこむ。何考えてるんだと思うとこだがこのあと甲斐甲斐しく料理などして、ほどなくできちゃいますからね。まあ最初から永瀬狙いだったのかという話である(一方の永瀬の方は、ジャンヌが落ち着くと花がさっさと帰ってしまうのにそこはかとなく不満そうな表情を浮かべてたのが微妙に味わいぶかい)。以下、アキが

「菌類じゃからのー」
「千年に一度のときが迫っとる」
「おまえ、最近森がおかしいと思わんか?」

 ジャンヌが

「time is near」
「生命は進化しすぎると崩壊をはじめる……」

 などとそれぞれまったく噛み合わない意味のわからぬスピリチュアルなことをいいつのる中で、どうやらVISIONとは千年に一度開花して胞子を放つキノコの一種であり、開花の日がまもなく迫っていることが示される。ジャンヌもアキもどこでそんな知識を得たのかはさっぱりわからぬままである。アキはジャンヌに「やっと会えたな」と辻仁成のようなことを言って迫る。ジャンヌはなぜか素数ゼミの話をはじめる。

 

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