柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『雪の華』 「ヒット曲を映画にする」って誰か喜ぶ人がいるんだろうか? フィンランド政府完全タイアップで、フィンランドで♪今年最初の雪~って歌われてもねえ

公式サイトより

雪の華

監督 橋本光二郎
脚本 岡田惠和
撮影 大嶋良教
音楽 葉加瀬太郎
主題歌 中島美嘉
出演:登坂広臣、中条あゆみ、高岡早紀、浜野謙太、箭内夢菜、田辺誠一

 

face「あの名曲が映画になった……」ということで原作:中島美嘉「冬の華」。ボカロ曲を映画にしました!とかもそうなんだけど、「ヒット曲を映画にする」って誰か喜ぶ人がいるんだろうか? 中島美嘉のファンが観たがるとは思えないし、LDHファンも別にそんなもの喜ぶまい。いかにも業界のタイアップ的都合で作られた企画の匂いがする。さらには2019年が日本フィンランド外交樹立百年記念だとかで、フィンランド政府全面協力で、ヒロインはFinnairでなんと三度もフィンランドに飛んでしまう。別に中島美嘉がフィンランドのことを歌ってるわけではないので、これは完全にタイアップの都合だろう。フィンランドで♪今年最初の雪~って歌われてもねえ。

さて、ヒロインは難病で余命一年と診断された美少女。彼女が「生まれてはじめての恋をしたい!」と百万円でイケメンに「一ヶ月間、恋人になってください!」と頼んで……というお話。ということは当然

1)二人は恋人ごっこをしてるうちにだんだん本気になる

2)だが誤解があって別れる

3)余命の事実を知って男が戻ってくる

4)涙々のいちゃいちゃの中死んでゆく

という展開が予想される。ところがこの映画、二人がすべての内面の思考を発声する副音声映画であるうえに、どちらもやたらと記憶力がよくて、何かあるたびに二人の過去が延々フラッシュバックされる(毎日が走馬灯のような二人)。おかげで話が全然進まず、なんと上映時間2時間5分でも3)までしかいかなかった! あまりに展開がのろいんで、映画見ながら時計チェックがはかどるはかどる。それぐらいスローな展開だったということで……

 

 

さて、物語はフィンランドからはじまる。美雪(中条あゆみ)は奇跡を起こしてくれるという赤いオーロラを観たくて父母の出会いの地であるフィンランドまできたものの、悪天候のせいで観られずに帰国する。「また来ようね…」と言い合うカップルを横目に

「わたしには、またはないんだ……」

とひとりごちる美雪。実は幼少時から病弱で、主治医(田辺誠一)からも

「この一年、悔いの無いように大切に過ごして」

とほぼ余命一年を告げられるのだった。さすがにタイムリミットまで区切られて凹む美雪、病院からの帰り道にひったくりにあってさらに落ち込むが、それを助けてくれたのがたまたま通りがかったイケメンこと綿引悠輔(登坂広臣)。ユースケ、なぜかつねに上から目線で命令口調(俺様だけど心根は優しいという、まあよくある奴ですな)。

「助けてほしかったらもっとでかい声で言えよ。声出してけよ。声に出さないと、わかんねーんだよ!」

デリカシーのない上から目線の説教に照れ隠しの優しさを感じとった美雪、しばらくして街角で当のイケメンを見かける。後をつけていくとCafe Voiceという喫茶店に入っていくではないか。ベリーワッフルが名物だというカフェでカフェオレを飲みながらイケメンストーキングにいそしむ美雪、ユースケと店長(浜野謙太)の会話を盗み聞きし、カフェが百万円の不足で閉店の危機に追い込まれていることを知る。長ったらしいわりには肝心なことは語られない映画なのでなんの費用なのかもわからないままなのだが、たまたま美雪はこれから一年の生活費として貯めていた百万円を持っていた。そこで意を決して一人になったユースケに話しかける。

「あのっ! 百万円あげますからわたしの恋人になってください! 一ヶ月でいいので!」
「はあ、何言ってるの? 頭おかしいのかよ!」
「はい!」

 

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tags: 中島美嘉 中条あゆみ 副音声映画 大嶋良教 岡田惠和 橋本光二郎 浜野謙太 田辺誠一 登坂広臣 箭内夢菜 葉加瀬太郎 高岡早紀

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