柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』 どっちを選んだっていいんだよ。それがゲームなんだから。ビアンカを選ばなければならないのはそれが人生だから! わかる、この意味?

公式サイトより

ドラゴンクエスト ユア・ストーリー

総監督 山崎貴
監督 八木竜一、花房真
原作 堀井雄二
脚本 山崎貴
音楽 すぎやまこういち
出演:佐藤健、有村架純、波留、坂口健太郎、山田孝之、松尾スズキ、井浦新、賀来千香子、吉田鋼太郎

 

face もちろんビアンカ派です。持参金につられてフローラを選ぶような人の道をはずれた外道ではありません。

話題の山崎貴作品は1992年にスーパーファミコン用として発売されたRPGゲーム『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』の映画化である。ドラクエもほどなくやらなくなってしまうのだが、このころまではぼくもかなり本気にやりこんでいた。なので映画を見ても懐かしいことばかり。問題のオチについては……正直言いますとよくあるパターンなのでそれほど驚くでもなく、ただただ「こんなこと考えてるヒマがあったらそれ以前のストーリーをもうちょっと面白くしろよ……」とむなしい気持ちに駆られるばかりであった。

 

 

物語は英雄パパス(山田孝之)の息子として育った主人公リュカ(佐藤健)がラインハットの王子ヘンリーとともに囚われて奴隷となり、ようやく脱出したのち大富豪ルドマンに見初められて娘との結婚を持ちかけられるが……とほぼ昔やったゲームのとおりに展開する。主人公がなぜかおっちょこちょいで優柔不断に描かれているのは、おそらく「ユア・ストーリー」だからなのだろうが、これにはやたらとイライラさせられる。まあしょうがないこととはいえ、全体に戦闘が「やらされてる」感が強く、主人公の生き死にに切迫感がない。『ドラクエV』は、いきなり父親が殺されてしまったり、伝説の武具が使えなかったり、しまいに主人公が石像にされてしまったりといった予想外の展開に翻弄されまくったわけだが、それ全部ゲームで知ってるから……せめて石化されるところくらいはもうちょっと絶望感が欲しかったんじゃないかなあ。

さてこの話、実は親子三代にわたる長大なロマンだったりする。それをそのまま映画化するのはいくらなんでも大変なのはそのとおり。でも、だからって幼年期編をサクサク進めてしまうと、父との別れもお約束だし、ビアンカやキラーパンサーとの再会にも別に感慨も何もないということになってしまう。で、それがなければフローラを選ぶのは人非人、というギャグにまったく意味がないということになってしまうわけですよ。わかってるのかな?

たぶんわかっていないんだと思う。というのはルドマンの町に行ってから延々とビアンカ(有村架純)とフローラ(波留)のどっちを選ぶのかという茶番劇が繰り広げられるからである。山崎貴は『STAND BY ME ドラえもん』でも結婚をドラマ全体の一大イベントにしていたくらいで、結婚には並々ならぬ思い入れがあるとお見受けしますが、それそんな大事?という話である。なんでここが大騒ぎにされているかというと、それは山崎貴がドラクエをやっていないからに他ならない。ドラクエVをやらずにドラクエVについて調べると、当然結婚イベントがあり、そこではビアンカとフローラのどちらを「天空の花嫁」にするのが正しいのかという議論が二派に分かれて巻き起こった……という情報が飛び込んでくるはずである。だからそれをストーリーの中心においてみたんだろうけど、違うんだよ! そんなの、どっちを選んだっていいんだよ。それがゲームなんだから。にもかかわらずビアンカを選ばなければならないのはそれが人生だから! フローラを選ぶ人はゲームだから彼女を選んでるの! わかる、この意味?

 

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