柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『バイバイ、ヴァンプ!』 今いちばんヤバいエクスプロイテーション案件は「2.5次元」。イケメンを集めた吸血鬼映画を作りますんでひとつよろしく、と生まれた差別映画

公式サイトより

バイバイ、ヴァンプ!

プロデューサー 大勝ミサ、GOD
監督・編集 植田尚
原作 中村啓
脚本 中村啓、植田尚
撮影 島田貴仁
出演 寺坂頼我、高野海琉、マーシュ彩、工藤美桜、美月音寧、とまん、なべおさみ、SIZUKU、渡辺裕之、川平慈英、ゴリ(ガレッジセール)

 

かねてより、今いちばんヤバいエクスプロイテーション案件は2.5次元なんだと指摘してきたのだが、それがまさかこんなかたちで証明されることになろうとは。吸血鬼に噛まれた人間が同性愛者になってしまうという異色--というか差別的吸血鬼映画としておおいに物議をかもしたこの映画である。見ないとわからないとかそういう意見もあるでしょうが、もちろんまごうことなき差別なんで、それを指弾する上では映画を見る必要はまったくありません。そもそも吸血鬼には十字架が効くからって分家吸血鬼が十字架を持ってきて武器にするとか、青森県戸来村で死んだキリストの子孫が生きていてその血が……とかちゃぶ台をひっくりかえしたくなる思いつきネタ満載で、真面目に論じるレベルのものじゃない。ただ個人的には、この映画について調べていたら色々と自分の業の深さを思い知らされる結果となりまして……

まず、この映画の黒幕と目されるGOD(ゴッドプロデューサーKAZUKI)、実は未知の存在ではなかった。あの寺西一浩監督作品『17歳のシンデレラ 東京ボーイズコレクション~エピソード2~』の音楽を担当していたのである。『17歳のシンデレラ』にはGODのパートナーであるSIZUKU も出演している。まさかこれが寺西ワールドとつながるとは吉田豪でも気がつくまい。一方、監督・脚本をつとめた植田尚の作品は2010年の水戸市政120周年記念映画『ViVA Kappe!』を見ている。このWEBマガをはじめる前にほそぼそとやっていた当たり屋活動ですでにチェック済みだった。この植田監督が『BOYS AND MEN -One for All, All for One』なるセミドキュメンタリー映画を撮っていることから、BOYS AND MENとのコネができたものと思われる。ついでに原作・脚本の中村啓は宝島社の第7回『このミステリーがすごい!』大賞で優秀賞を獲得してデビューした作家で、原案もつとめる製作者大勝ミサがエグゼクティブ・プロデューサーをつとめた『霊眼探偵カルテット』でも脚本を書いている。ということでほぼこの映画の関係性ができあがる。そんな低予算映画に蠢いている有象無象が集まって、何も知らない茨城県猿島郡境町に話を持っていき(境町町長特別出演)、イケメンを集めた吸血鬼映画を作りますんでひとつよろしく、と協力をとりつけた結果生まれた映画が本作なわけである。

 

 

キャストには名古屋のボーイズグループ祭nine.のリーダーである寺坂頼我を筆頭に、BOYS AND MEN(祭nine.がBOYS AND MENの弟分、という関係だそう)のメンバーや2.5次元舞台の役者やモデルといった面々が麗々しくならんでいる。で、こうした映画の場合はほぼこのキャストを集めるところで仕事は終わりなのである。以下ストーリーはいかにも安易な2.5次元映画らしく、女性はイケメンが好き、女性はホモが好き。ならイケメンを集めたホモ映画を作ればいいんじゃね? という程度でネタを考えたものと思われ、ゲイを「異常」な病気とみなす態度の差別性には気づいてもいないだろう。そもそも吸血鬼の吸血行為が性行為のメタファーだというのはブラム・ストーカーの時代から言われていることで、それほど珍しい発想ではない。そしてその「病」が性を越えるのも当たり前のことだった。ただしそれはホモセクシュアルというよりはパンセクシャル、すべてに欲情するセックスであるはずなのだ。だからこの映画も吸血鬼に噛まれたものはみな性的に放埒になって男女を問わず魅了してしまう……みたいにしておけば、ここまでの騒動にはならなかったろう。この「ゲイを病気扱いにする」というのは物語を作る上でも完全に間違っており……

 

 

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