柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『グウィネス・パルトローのグープ・ラボ』 マジック・マッシュルームや怪しげな療法、そして女性性器のクローズアップ・・・ハリウッド・セレブのシンプル&リッチな挑戦ドキュメンタリー【皆殺しの天使】

グウィネス・パルトローのグープ・ラボ
 ”The Goop Lab with Gwyneth Paltrow”

 

グウィネス・パルトロウと言えばMCUではアイアンマンの妻、トニー・スタークの秘書兼妻ペッパー・ポッツ役をつとめていたのだが、彼女がしばらくマーベル映画に出ていなかった時期があったのを覚えているだろうか。『スパイダーマン:ホームカミング』には麗々しく一枚クレジットもらいながらも、出番は三秒ほど。その後もトニーの妻としてやる気もないくせにやたら愁嘆場になると画面に出てきてファンからは「……そこにいるべきなのはおまえじゃなくてキャップだろう!」(一部女性陣はトムホだろう!と叫んでいたらしいが)言われるおじゃま虫ぶりだったのだが、それには理由がある。というかもともとこの人、『アイアンマン』に出たころはそれほどのスターでもなかった。だからトニー・スタークの恋人程度の役を引き受けたのだとも言える(そもそも『アイアンマン』自体、落ちぶれたロバート・ダウニー・ジュニアが復帰のために取り組んだ作品で、超大作でもなんでもなかった)。その後シリーズが続く中でアイアンマンの存在も大きくなっていったのだが、それに比してペッパーの存在は小さくなっていった。なぜなのか? それは彼女グウィネス・パルトロウにとっては女優業は取り組むべき最大の課題でもなんでもなかったからである。グウィネスにはもっと大事なことがあった。それがGoopである。

公式サイトより

Goopは2008年に立ち上げられた「ライフスタイル・ブランド」。ハリウッド・セレブたるグウィネスのライフスタイルを発信し、ファッションやジュエリー、コスメといった外面からさらには内面までも磨き上げるためのノウハウやらを教え売り込むサイトである。ゴージャスよりはシンプル&リッチの西海岸風ライフスタイルということになるだろうか。Goopでは通販でグウィネス御用達の商品を売り、医師のアドバイスを提供する。2019年には日本にも実店舗が上陸しているとか。まあドレスやらシャンプーやらコスメやらを売っている分には毒にも薬にもならなかったのだろうが、実はグウィネスわりとセクシャル方面にもアグレッシブで、GoopではSMグッズなんかも扱っている。セクシャリティの解放もライフスタイルの一部というわけなのだが、性生活を改善する効果があると称して、膣に入れる翡翠の卵を売りつけるとなるとさすがにどうかと言わざるを得ない。膣に入れる石のほかにもスピリチュアル方面でいろいろ怪しげな商売をして訴訟を起こされていたりする。

公式サイトより

さてそんなグウィネスとGoop、ついに満を持して映像化。NetflixにGoop Labというノンフィクション・シリーズが登場した。グウィネス・パルトロウとGoopの従業員たちが自分を改善するためにさまざまなことに挑戦するというドキュメンタリーなのである。グウィネスは「自己最適化」と呼ぶのだが、要は一度限りの人生をフルに楽しむために身体をフルに使おうということらしい。この「さまざまなこと」がすごい。第一話ではいきなりジャマイカに飛んでマジック・マッシュルームを食べる。ラリったGoopスタッフが空を見つめて涙を流したりしてるさまを延々流しているという素晴らしいドキュメンタリーだ。

Goopの人たち、あらゆる怪しげなものに飛びつくので、第二話では寒冷曝露セラピーなる療法をやっている男性が登場する。「アイスマン」ことウィム・ホフは正しい呼吸法をマスターすれば真冬に湖に飛び込んでも平気だと言い、冷水セラピーによって心身のコントロールが可能だと主張する。ビキニ姿の参加者たちが揃って「騎馬立ち」で妙な踊りをはじめるのには思わず笑ってしまう。

 

 

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tags: Netflix 天国編

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