柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『ケアニン~こころに咲く花~』 介護業界の素晴らしさを訴えるシリーズ第三作。理想と現実のせめぎあいを、泣き落としと人情とブラック労働で解決!これがいつもの日本映画仕草である

公式サイトより

ケアニン~こころに咲く花~

監督 鈴木浩介
企画・原作・プロデュース 山国秀幸
脚本 藤村磨実也・山国秀幸
撮影 高柳知之
出演 戸塚純貴、島かおり、綿引勝彦、赤間麻里子、渡邉蒼、秋月三佳、中島ひろ子、浜田学、小野寺昭、松本若菜、細田善彦、小市慢太郎

介護業界の素晴らしさを訴えつづける介護福祉士エクスプロイテーションケアニン~あなたでよかった~(2017)の続編。シリーズとしては2019年のピア~まちをつなぐもの~に続く第三作となる。今回もプロデュースと脚本を担当する山国秀幸が中心となり、厚生労働省の後援をとりつけ、全国の介護福祉業者からの特別協賛を集めて映画ができあがった。ずらりと並んだ特別協賛のクレジットはこの手の映画のおなじみだ。シリーズの顔である“ケアニン”松本若菜がおなじみ佐藤夏海役で出演。前作『ピア』の主人公高橋雅人(細田善彦)とコンビで友情出演している。こういうところが意外と律儀なんだよな、このシリーズ。

 

 

主人公は『ケアニン』にひきつづいて戸塚純貴が演じる若手介護士大森圭。第一作ではデモシカの新人介護士大森が、介護対象者とのふれあいを通じて一人前に育っていくまでが描かれた。その大森、小規模多機能型私設を部隊にした前作とかわり、本作では大型施設である特別養護老人ホーム「昭和誠苑」に職場をうつす。「ひとりひとりと向き合って丁寧な介護」を旨とする大森(というのも無論前作ではそれが至上の価値とされていたからなのだが)だったが、大型施設での流れ作業のような介護には慣れず、婦長(中島ひろ子)をはじめとする先任スタッフからも足手まとい扱いされている。「相手のペースに合わせて」いるので空腹でも満腹でも一斉に食事を出し、一斉に片付ける給食も、時間を決めておむつをいっせいに替えるやりかたも気に入らず、周囲と衝突してばかりいる。

だが効率第一の方針の理事長(小野寺昭)は「小規模の出身者は新人と一緒だな!」と歯牙にもかけない。一見すると効率vs思いやりの二択に見えるんだけど、もちろん理事長にも言い分があり、効率重視に見える一斉の介護は事故をおこさないための安全管理でもある。個々に食事をさせたら食中毒や事故のリスクも高まるではないか。余計なことをしないでマニュアル通りの対応を貫くのはあくまでも利用者の安全のためなのである。これ、別に言い訳として言ってるだけじゃなく、かつて理事長たちは開放的な介護施設を目指していたのだが、近隣からの抗議や事故のせいで閉ざされた施設になったという経緯がある。いわば挫折した理想主義者なのである。

となると理想vs現実のせめぎあいの中で、大森がどういう選択をするかというのがテーマになるはずなんだが……日本映画に親しんでいる人ならわかるでしょうが、もちろんそんな選択はありません! 結局は泣き落としと人情とブラック労働で解決! これがいつもの日本映画仕草である。

 

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tags: 中島ひろ子 介護福祉 厚生労働省 在宅医療 小市慢太郎 小野寺昭 山国秀幸 島かおり 戸塚純貴 松本若菜 浜田学 渡邉蒼 秋月三佳 細田善彦 綿引勝彦 藤村磨実也 赤間麻里子 鈴木浩介 高柳知之

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