柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『その後のふたり  Paris Tokyo Paysage』  オレだってEOS 5Dで映画ごっこしたいよ!(柳下毅一郎)

『その後のふたり  Paris Tokyo Paysage』  (2011 JT communications)

監督・脚本・編集・出演 辻仁成
撮影 中村夏葉
音楽 磯江俊道
出演 坂井真紀、倉本美津留、伊藤キム、シャンタル・ペラン、セシール・ランシア

 辻仁成の監督第七作だそうである。前作は東京国際映画祭正式出品作だったアントニオ猪木主演の『ACACIA』。アントニオ猪木が『JAWS』ごっこのあげく一人プロレスをやる究極の一本のあととなってはさすがにどんなものを作ってもパワーダウンは否めまい……と考えるのが普通だろう。だが相手はフェミナ賞受賞作家様である。こちらの想像などはるかに超え、今度はなんと監督脚本に加えて主演。最初から最後まで徹底的に辻仁成の魅力が満載である。はたして耐えられるのか……

七海(坂井真紀)と純弥(辻仁成)はコンビの映画監督。十五年間公私ともにパートナーを組んできたが、ある日「同じ空を見ていても、同じ光を見ていない」ことに気づいて別れることにする。純弥は家に荷物を置いたまま一人パリに旅立つ。七海は「別れた二人のその後をドキュメンタリーにしよう」と提案。こうしてパリと東京、離れた二人のビデオレターがはじまった。

坂井真紀は「みんな恋愛には興味あるし、別れた二人の関係とかみんな興味持つわよ!画期的なドキュメンタリーになる!」とまくしたてるんだが、基本的にはカメラ(CANON EOS 5D)に向かって「わたしたちって、なんで別れちゃったんだろうね……」とぽつぽつ喋るのみ。いや、それはただのビデオレターだ。そして、そんなものに興味を持つ人間は世の中どこにもいない!いや一人だけはいるか。つまり辻仁成本人だ。そういうわけで、これは辻仁成の自主映画なのである。

ウェブページに辻からのメッセージが記載されている。

「日本に戻るたびに、映画界の大変な宣伝合戦の中で、ますます独立系映画の制作配給が難しくなっていることを知ります。大手映画会社の大型宣伝がなければ映画はヒットもしない時代になってしまいました。独立系の映画会社はことごとく潰れていきました……どうして、映画はお金がかかるのだろう。誰もが映画を作ることの出来る時代にはならないものか、と試行錯誤をはじめます」

いやそれはただの自主映画だから!だがそこは作家様だけに「気がつくと日仏の映画人が参加し、地球規模の映画になっていました

地球規模の自主映画で、日本の映画界に一石を投じてしまった辻仁成である。

さて、一人になった坂井真紀には、さっそく同僚そのいちからお誘いがあったりするが、ベッドにEOSを据え「でもこういうのってどうかしらね。あなた奥さんも子供もいるしあたしもお酒に流されてるかしら……」とカメラに向かってまくしたてることでたちまち撃退。一方、パリの辻仁成は作品撮影をしていてアーティスト、シャンタルに見初められる。「閉じない本を作りたい」と本でランプシェードを作ったりしているシャンタルは、「まるで女の子かと思った……あなたのなめらかな肌に本を書きたいわ」と、辻仁成をナンパ。辻も老いても美しいシャンタルに興味を抱く。辻の素肌に「この砂漠の上にかつて私の王国があった……」とポエムを書き綴り、怪しい雰囲気をただよわす。気がつくと謎の舞踏など踊ってみたりして

シャンタルにはもう大人になった娘がいた。母と淫靡な関係の東洋人に興味を抱いた娘は、朝食の食卓下で脚を絡めあわせてエロく誘惑する。だが二人きりになると「あたし処女なの」と告白。「きみ本当にパリっ娘?」と身も蓋もない突っ込みをする辻。てか処女も濡れて親子丼もウェルカムとか、辻くんどれだけモテるのか!!(てか自作自演でこの役って、辻のナルシシズムとどまるところを知らず

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tags: 坂井真紀 辻仁成

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