柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』 コロナ禍による出し遅れオリンピック便乗作品。オリンピックこそが感染拡大の総本山と目される状態になったところで公開してどう楽しめと

公式サイトより

ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~

監督 飯塚健
脚本 杉原憲明、鈴木謙一
撮影 川島周、山崎裕典
音楽 海田庄吾
主題歌 MISIA
出演 田中圭、土屋太鳳、山田裕貴、眞栄田郷敦、小坂菜緒、落合モトキ、菅原大吉、八十田勇一、濱津隆之、古田新太、大友律、狩野健斗、山田英彦、加藤斗真

またしてもコロナ禍による出し遅れの証文映画。それもオリンピック便乗作品である。当初の予定通り、昨年夏オリンピック前に公開されていたらそれなりに盛り上がったかもしれないが、一年遅れて東京オリンピックこそが感染拡大の総本山と目される状態になったところで公開してどう楽しめというのかこっちが聞かせてもらいたいくらいだ。肝心の物語は1998年長野冬季オリンピック、スキージャンプ競技が舞台、そこでテストジャンパーとして競技の円滑な進行のために裏方を務めた二十五人のジャンプ選手たちが主人公である。予告編を見てもらえばわかるのだが、ジャンプ団体一回目のジャンプのあと天候が悪化する。競技をつづけるためにはテストジャンパーたちが全員成功しなければならない。もしもテストジャンパーが失敗したら、二回目の競技は中止になり、一回目のジャンプだけで結果が決まる。一回目四位だった日本はメダルを取れないということになる。そうだぼくらの力で日本に金メダルを取らせるんだ! ヒノマルソウルで!

 

 

これ、実話だというんだからたぶんそういうことがあったのだろう。だが、ここまでオリンピック精神のかけらも感じられない挿話があるだろうか。そもそもテストジャンパーは競技を円滑にすすめるための裏方であって、間違っても特定の国、特定の選手のためにやる仕事じゃないだろう。この国においてはそれーー日本が金メダルを取ることーーがオリンピックの至上命題なのかもしれないが、それは言わぬが花、秘しておくべき本音なのだし、選手以外の人が競技の意味づけを押しつけたらダメだろう。だいたい、それだったらもし一回目に原田が失敗しなかったなら、テストジャンパーは失敗したほうがいいということになってしまうではないか。メダル狂い国家日本の醜い本音を丸出しにするのが感動のストーリーってどういう考えなんだろう? そんなわけで見る前から「日の丸魂」への嫌悪感ばかりが強調される映画、実際見てみると……

遡ること四年前、リレハンメル五輪スキージャンプ団体、首位に立っていた日本チーム、金メダルを取ったかと思われたが最後のジャンプで原田雅彦(濱津隆之)が失敗、銀メダルに終わる。世界二位なら立派なもんだと言いたいところだが、メダル中毒国家日本においては金メダル以外のメダルは許されず、故郷に帰ってきた西方仁也(田中圭)もちっとも喜べない。四年後、地元長野でのオリンピックでこそ悲願の金メダルを! いやもうこのオープニングからすでに気持ち悪く、ジャンプ競技の良さもスポーツの爽快さも何ひとつ感じられないプレッシャーばかりの世界が続く。オリンピック代表を目指して必死のトレーニングをつづける西方だが、腰痛をおして飛ぼうとしたせいで事故を起こし大怪我を負ってしまう。必死でリハビリにつとめ、ついにオリンピック開幕一ヶ月前に復帰。代表最後の一枠をかけて臨んだ雪印杯で見事代表選手葛西紀明(落合モトキ)をも上回る成績で優勝するも、代表には選ばれなかった。リレハンメル大会の雪辱を果たすチャンスを失ってしまったのである。

失意に追い打ちをかけるのがコーチ神崎(古田新太)からのテストジャンパーへの誘いである。

「おまえ、スキー界から引退するくらいなら、オリンピックに協力して連盟に恩を売っておいたほうが将来いろいろ得だぞ」

 

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