柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『高津川』  過疎問題の解決策が「清流日本一」の押し付け一本槍。もう悪いけどこんなんじゃ滅びるしかないよ!

公式サイトより

高津川

原作・脚本・監督 錦織良成
撮影 佐光朗
音楽 瀬川英史
出演 甲本雅裕、戸田菜穂、大野いと、田口浩正、高橋長英、奈良岡朋子、緒形幹太、佐野和真、友利恵、石川雷蔵、岡田浩暉、浜田晃

 

高津川は上流から下流まで全流域にダムも堰もない唯一の一級河川で「清流日本一」が自慢。その川のほとりにある小さな町では、人口の減少から小学校が廃校になることが決まっていた……あまりに何度もくりかえされるのですっかり脳裏に刻みつけられてしまった「清流日本一」の町だが、そこもまたお定まりの若者が町を捨てて出てゆく問題に悩まされていた……いやこの映画、最初から最後まで既視感のあるおなじみの地方過疎問題しか出てこないうえに、その解決策が「清流日本一」の押し付け一本槍だけという、もう悪いけどこんなんじゃ滅びるしかないよ!とひさびさに叫びたくなる地方映画。場所は島根県の津和野町から益田市までのどこか。原作・監督はもちろん島根映画を仕切る島根地方映画のチャンピオン錦織良成監督である。

 

 

川沿いの山道を走っていく車。この映画、やたらと川の脇を車や自転車が移動してゆくカットが多い。風光明媚は嫌というほどつたわってくるが、物語と切り離された美しい風景だけ見せられても、ただ心がさまよっていくばかりで……山頂でトラックから降りたのは斎藤学(甲本雅裕)、畜牛を営む農家である。妻をなくして家族は母(奈良岡朋子)と息子竜也(石川雷蔵)、娘七海(大野いと)の四人暮らし。この映画で気になったのが、どうも母親の存在感が薄いことである。家族はあるけど、母子関係というのがあまり出てこないのだ。物語の中心になるのは学の同級生たちなのだが、寿司屋の健一(岡田浩暉)は跡継ぎの息子の教育に懸命だし、和菓子屋の陽子(戸田菜穂)は結婚しないで店を継ごうとしている。優秀だった誠(田口浩正)は弁護士になって都会に出たが、実家は老父が一人暮らし。どこにも母がいないのだ。どうも、延々と語られる若者の流出問題、そこらへんに理由があるんじゃないかと思うけど、どうよ? この閉鎖的な地域コミュニティの矛盾をすべて母=女性に押しつけてやいませんか? だがまあそこらへんは特に追求されることなく、農場の方は高津川流域の豊かな自然を新鮮に満喫している福岡出身の従業員カナ(友利恵)が率先して3K労働を厭わず働いてくれるので働き手の問題とかは一切表面化しない。どこもこんなんだったら技能実習生問題とか起きずにいいのだが、そんなのは映画の中にしか存在しない夢の現代農業なのにね

 

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