柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『今夜、世界からこの恋が消えても』 記憶喪失vs難病。まさしく現代日本映画の華ともいうべき難病恋愛青空映画

→公式サイトより

『今夜、世界からこの恋が消えても』

監督 三木孝浩
原作 一条岬
脚本 月川翔、松本花奈
撮影 柳田裕男
音楽 亀田誠治
主題歌 ヨルシカ
出演 道枝駿佑、福本莉子、古川琴音、前田航基、松本穂香、野間口徹、野波麻帆、水野真紀、萩原聖人

猫も消えたが今度世界から消えるのは恋である。なぜならヒロイン、福本莉子演じる日野マオリは寝るとその日一日の出来事を忘れてしまう前向性健忘という記憶障害を患っているからだ。寝たらその日の分の恋は消えてしまうというわけ。あードリュー・バリモアのアレみたいな奴ね……まあそうでもあるがそれとも違う。なぜなら本作は脚本に『きみの膵臓を食べたい』の月川翔、監督に青空映画の王三木孝浩を迎えたまさしく現代日本映画の華ともいうべき難病恋愛青空映画であるからだ。朝起きるとベッドのまわりには「記憶障害だから朝起きたらすぐにパソコンの日記を読むように」との注意書きがはられており、2019年GW初日に交通事故に遭ってからの日々の記録を読み、両親(野間口徹と水野真紀)と毎日同じやりとりをくりかえすところから一日がはじまる。こんな病気をわずらいながら元気に高校に通っているマオリは、ある日顔も知らない別クラスの陰キャ生徒神谷透(道枝駿佑)から「付き合ってください」と告白される。ところが神谷も驚いたことにマオリはつきあいをOKする。ただし三つの条件付きで。1)会うのは放課後 2)それまでの連絡は手短に 3)決して、本気で恋をしないこと いったい彼女の意図は……?

 

 

という話なのだが、この映画が根本的におかしいのは、最初にマオリの記憶障害を明かすところからはじまること。これどう考えたって、罰ゲームで嘘の告白をしたおかげで校内のアイドル的美人マオリとつきあうことになった神谷が、つきあっていく中でこの妙な条件の理由を探って彼女の記憶障害の真相を知る……っていう話でしょうが! 最初に記憶障害を明かしちゃったんで、なんかままごとをやってるようにしか見えない(別に記憶障害がバレるサスペンスがあるわけじゃないので)。

映画自体は三木孝浩なんで盛大に音楽がかかりまくり、加えてテーマをことこまかに説明してしまうセリフと内心を吐露するナレーションが入る目をつぶっていてもわかる系映画。困ったことにナレーションする人が物語の都合でくるくる変わり、最初マオリのナレーションではじまったと思ったらいつのまにか神谷が語り、と思うとマオリの親友綿矢イズミ(古川琴音)がナレーション役になったりする。なんでこんなに視点人物が変わるんだ?と思っていたんだが、これ別に物語の視点人物として設定されているわけじゃなく、ナレーションも語りの技法のひとつとして使われているだけなんだな。その登場人物の心情をもっともわかりやすく説明する手段としてナレーションが使われているのだろう。原作のラノベ由来なのかもしれないが、ナレーションの意味ももういろいろ違っているのである。

 

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