柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『耳をすませば』 いやほんとなんで実写化なんて企画が通ったのやら……耳をすませば、その理由が聞こえてくるかも……

皆殺し映画通信10周年記念イベント
『10周年だよ、全員集合! 死して屍拾うものなし』
開催のお知らせ(12/3)

 

公式サイトより

耳をすませば

監督・脚本 平川雄一朗
原作 柊あおい
撮影 中山光一
音楽 高見優
主題歌 杏
出演 清野菜名、松坂桃李、山田裕貴、内田理央、安原琉那、中川翼、住友沙来、音尾琢真、松本まりか、中田圭祐、小林隆、森口瑤子、田中圭、近藤正臣

 

ジブリアニメの実写化と見せかけて実は原作からの直接の映画化なんで宮崎駿関係ないんすよサーセンというジブリプロイテーション第二弾!(第一弾はもちろん『花束みたいな恋したい』でもネタにされていた魔女の宅急便)本作はアニメの主人公であるところのシズクとセイジ二人の十年後を描く……というのだが、原作コミックからの直接映画化というのが本当ならば、そもそもなんでセイジはイタリアに行ってるんだっていう話である。アニメ版『耳をすませば』は、宮崎駿がたまたま見かけた原作の一部をもとに妄想を膨らませて勝手にこしらえたストーリーで、脚本を書いたのちに原作を読み、「話が違っている!」と怒ったという伝説がある。それくらいもともと脚色がきつい話なので、まともに原作コミックを脚色したら、アニメとは似ても似つかぬものができあがるはずなのだ。しかるに

1)セイジの夢 原作→画家 アニメ→ヴァイオリン作りの職人 実写→チェロ奏者
2)セイジとシズクの兄弟 原作→それぞれ兄と姉がいる アニメ→シズクの姉だけ登場する 実写→いない

どう見たって原作コミックじゃなくてアニメの再脚色だろうが! 一応コミック原作なので中学時代のエピソードも映画化されるのだが、中学時代のシズクを演じている子役がやたら「ウッ」とか「はあっ」とか、アニメのキャラクターしか発声しないような間投詞を喋るうえに行動のすべてを実況し、見たものすべてを読みあげる恐怖の副音声人間だったり、屋上での二人の会話を盗み聞きしてる人たちがドアの裏側に大量に身を寄せあってるみたいな宮崎アニメ的描写があったり、どこもかしこもアニメ臭い! そういう演出が大人(10年後の現在)になると影を潜めてしまうのって、要するに、お手本がないからじゃないの!?と思わされてしまうジブリにおんぶにだっこっぷり(スタジオ・ジブリは「協力」としてクレジットされている)。いやはや……

 

 

1998年。いきなり『翼をください』をアカペラで絶唱する月島雫(清野菜名)。もうこの時点でドン引きですよ。雫は児童書の出版社につとめるかたわら、児童文学者を目指して投稿を続けているが、新人賞にもなかなかひっかからず心折れ気味だ。私生活では中学時代からの親友ユウコ(内田理央)とルームシェアして三年になるが、ユウコが同じく中学時代からの腐れ縁であるタツヤ(山田裕貴)と結婚することになったので、そこも出なければならない。会社ではパワハラな編集長(音尾琢真)から無理難題を押しつけられ、担当作家ソノムラ(田中圭)の新作にダメ出しをする羽目に追い込まれる。公私共に煮詰まっているのだった。

一方、中学を出てそのままイタリアにわたり、チェリストをめざして修行中の天沢聖司(松坂桃李)。いや、アニメ版のヴァイオリン職人というのも相当だけど、中学出てまっすぐ演奏家ってどんだけ……弦楽四重奏団を率いて順風満帆だが、楽譜に忠実な演奏にこだわるので「日本人だな」と言われている……ってその程度、挫折のうちにも入らないよね。まあ順風満帆、机には雫の写真も飾ってある。

その一方、中学時代の二人の出会いが安原琉那と中川翼の二人によって演じられる。学校の図書室から本を借りるたびに同じ名前が図書カードに書いてあることに気づいた雫が、その相手のことが気になって……妙にお手本に寄せたアニメっぽい演出(寺の境内で雫が杉村から告白される場面の謎カットは忘れがたい)ばかりが目立つ過去の場面が適当に挟み込まれていったりきたりするんだが、これ、要るのか? アニメ版を見ている人にとっては蛇足だし、見ていない人にとってはわかりきった話を雑になぞるだけである。そもそもこの構成にすると、輝いていた過去に対してうだつのあがらない雫の現在がつらすぎるんよ……その現在を招いたのがそもそも聖司に出会って煽られた結果だったりするわけで、ますますこの過去編必要なくね? まあそれをいうならこの映画自体なんのために作ってるんだって話になりそうなんだけどさー。

 

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