柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『The Legend and Butterfly』 キムタクが何を演じてもキムタクなのはいつものこと。しかし、いくらキムタクバラエティでもこれにはなあ

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The Legend and Butterfly

 

監督 大友啓史
脚本 古沢良太
撮影 芦澤明子
音楽 佐藤直紀
出演 木村拓哉、綾瀬はるか、宮沢氷魚、市川染五郎、和田正人、高橋努、浜田学、増田修一朗、斎藤工、北大路欣也、本田博太郎、尾美としのり、池内万作、橋本じゅん、音尾琢真、伊藤英明、中谷美紀

 

「キムタク&バタフライ」こと東映期待の超大作戦国恋愛浪漫。キムタクこと木村拓哉が織田信長、すっかり国民的女優となった綾瀬はるかがその正室である濃姫を演じる。キムタクが伝説の男The Legend、濃姫が本名「帰蝶」とされるのでButterflyというわけだ。濃姫は「まむし」と言われた斎藤道三、一介の油売りから一国の大名にまでなりあがった伝説を持つ戦国大名の娘であり、道三と織田信長の父信秀は隣国同士で再三戦っていた宿敵だっただけに、この二人の結婚は歴然とした政略結婚である。だが二人はたいそうむつまじい夫婦になったという……というくらいのお話は知っていたが、実のところ帰蝶については確実な記録はほとんど残っておらず、没年すらわからないのだという。まあ、そういうわけで自由に想像をふくらませたキムタクバタフライなのだが、問題はその「キムタク」のほうにあって、これ実は前後半で話のトーンが変わって、前半のコメディから後半ガラッと悲劇に転じる脚本なのである。で、キムタクが何を演じてもキムタクなのはいつものことで、前半のキムタクバラエティ(正月特番)の部分はまあ、テレビのバラエティと思ってみればこういうもので済むのだが、問題なのが後半部分である。キムタクの一面的なキムタク性ではとても複雑な悲劇は演じられず、なんせキムタク、別れの場面で柱の陰に隠れて短刀の鞘を咥えて嗚咽をこらえてたりするんで、いやそれどんな演技だよ! いろいろ腰を抜かす場面が登場し、さすがキムタクと思わざるを得ない出来なのであった。

 

 

1549年(天文18年)。織田信長(木村拓哉)のもとに斎藤道三の娘帰蝶(綾瀬はるか)が輿入れすることになる。信長は「今様の恰好だから」とわざと帯のかわりに紐を巻く着崩しスタイルを選ぶなど、見栄っ張りで中身がない男。才色兼備の帰蝶は父(北大路欣也)から政略結婚を言い含められ「わかる。わかるが言うな。思ったことを口にするなー」と口を封じられて仕方なくこの「うつけ」のもとに嫁いできた。案の定の恰好を見てさらに幻滅を深めた帰蝶、二人きりになったところで信長に「腰を揉め」と横柄に命じられて怒り爆発、得意の当て身で信長をぼこり、関節技で締め上げてヒイヒイ言わせる。表で聞いているお付きの面々は一戦おっぱじめたかと身を乗り出すが、聞こえるのはキムタクの呻き声ばかり。美濃から帰蝶に付き従ってきた各務野(中谷美紀)は「姫様はなかなかやりますから」とほくそ笑んでいるが、実際はキムタクは関節技くらってただけだった、というオチ。

 

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