柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『わたしの幸せな結婚』 ひたすら「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」と謝りつづける2時間。しかも「わたしの幸せな結婚」なんてどこにもない!

 

公式サイトより

わたしの幸せな結婚

監督 塚原あゆ子
原作 顎木あくみ
脚本 菅野友恵
撮影 江原祥二
音楽 立山秋航
主題歌 Snow Man
出演 目黒蓮、今田美桜、渡邊圭祐、大西流星、前田旺志郎、高石あかり、松島庄汰、高橋大翔、浜田学、山本未來、山口紗弥加、平山祐介、高橋努、尾上右近、土屋太鳳、火野正平、石橋蓮司

それは大正時代をイメージさせる架空の世界。架空の国の「帝都」には超能力を使う「異能者」たちがいた。「異能者」を生みだす家のものは、その血を濃くするために異能者同士の政略結婚をくりかえしている。そんな中、風使いの斎森家の娘美世(今田美桜)は異能力を持たない無能者だからと継母から酷いイジメを受けており、ついには冷酷非情で妻とは三日も続かないと言われている名門久堂家の跡取りであるエリート軍人久堂清霞(目黒蓮)の嫁にと体よく片付けられてしまうのであった……大正時代の超能力者バトルってつまり『帝都大戦』+『おしん』の嫁いびり大戦ってことか! とか言ってたら嫁いびりどころか婚家には善人しかおらず下にも置かぬもてなしぶり。実は彼女は実家で継母と異母妹から執拗なイジメを受けたせいでつねに腰を曲げて「すいませんすいませんすいません」と謝りながらあとずさりするエビ人間となってしまったのである。そんな卑屈の女王様がひたすら「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」と謝りつづける2時間。じゃあ異能者対決は?とおもったら、これが聞いてびっくりまったく無意味な内ゲバなのである。しかも驚いたことに映画の最後までヒロインと相手役は結婚しないのだ。「わたしの幸せな結婚」なんてどこにもない! なんなのこの映画……

 

 

美世は母澄美(土屋太鳳)を二歳のときになくし、後妻となった継母(山口紗弥加)と異母妹香耶(高石あかり)から日々お茶をぶっかけられるなどの折檻を受けまくっている。異能力を持たない女になど価値はない冷たい社会なのである。面倒だから片付けよう! というわけで冷血漢久堂への嫁入りを勝手に決められた美世、着の身着のままで放りだされる。トボトボと久堂家まで足を運ぶと、「俺が出て行けと言ったら出て行け、死ねと言ったら死ね」と言いはなつ冷血漢久堂清霞(目黒蓮)の前に土下座で「わかりました。すいません」をくりかえす。あまりに「すいません」ばかり言ってるので久堂が気がとがめて「いつまで頭さげてるつもりだ」「申し訳ありません」

翌日、(使用人扱いに慣れているので)早起きして朝ごはんの用意をするが、主人が箸をつけるまでは食べてはいけないという言いつけを守ってただ見守っていたために「毒でも盛ったのか。こんなもんが食えるか!」と怒られてまた「すいません……」

だが久堂は母親代わりの女中ゆり江(山本未來)に諭されて「……済まなかった。うまいぞ……」と翌日には早くもデレてしまうのであった。

これ、久堂はちょっとぶっきらぼうではあるものの、イケメンだし部下思いで部下からも慕われているし、いったいなんで冷酷非情の評判が立っているのかさっぱりわからない。香耶など「追い出されるか殺されるかどっちかしら」と楽しみにしてるんだが、別にそんな悪人じゃないし。斎森家のほうも、有力な久堂家との結びつきを作りたかったのなら、なんであんな捨てるように押しつけたりするのか。あるいは久堂にはサディストの評判があるので、「ごめんなさい」しか言わない謝罪自動人形を送りこめば、いいイジメ相手を献上してくれたと好意を抱くはずだとでも考えたのか。だが実際には久堂はあっという間にデレてしまい、逆に斎森家の事情を訝しむようになる。美世が風呂を入れようとすると、「おまえには無理だ」と火を出す異能を使って風呂を熱くしてくれる(ちなみに異能を発揮すると頬にベンゼン環のような模様が浮かび上がる仕組み)。

 

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