柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『本を綴る』 地方の本屋で「いやあすばらしいですねえ」と吉田類のようなおべんちゃらを言い、また次の本屋へ……その数珠つなぎで作られた書店応援ロードムービー

公式サイトより

 

本を綴る

監督 篠原哲雄
脚本 千勝一凛
撮影 上野彰吾、尾道幸治
音楽 GEN
主題歌 ASKA
出演 宮本奈々、矢柴俊博、宮本真希、長谷川朝晴、加藤久雅、遠藤久美子、川岡大次郎、石川恋、米野真織

 

「映画『本を綴る』は、2022年2月~東京都書店商業組合YouTubeチャンネルで配信されているドラマ『本を贈る』の続編です」というわけで近年苦戦が報じられる書店を応援する書店プロモーション映画である。舞台は東京都にとどまらず日本全国に広がり、京都や香川などの名物書店が登場する。こういう映画、なかなかに悩ましいところがある。活字中毒の一人として本屋を応援することにやぶさかではないのだが、こういう映画で取り上げられるのはどうしても意識高い店主の趣味や思い入れにささえられた「こだわりの本屋」になりがちであるからだ。そういう本屋はもちろん応援したいし、機会があれば必ず足を伸ばして寄るようにはしている。だけど、本当に危機なのは「こだわりのない」町の本屋のほうなのであり、「こだわりの本屋」は商売の論理ではなく店主の個人能力によって成立しているからである。本屋の危機とは構造的なもので、「こだわりの本屋」でそれをカバーするのは不可能なのである。だから、こうした応援はどうしても情緒的なものになってしまうのだ。本作もその点に変わりはなく……

 

 

 

 

飄々とした中年男が那須の地にあらわれる。閉店した本屋の前にたたずんでいるところ、不審に思った通りがかりの主婦が尋ねてみると。

「閉店ですか……力及ばずでした……」

 

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