『だいじょうぶ3組』 エクスプロイテーション魂炸裂の一本 (柳下毅一郎)
『だいじょうぶ3組』(東宝 2013)
監督 廣木隆一
脚本 加藤正人
撮影 清久素延
音楽 世武裕子
出演 乙武洋匡、国分太一、榮倉奈々、余貴美子
乙武くんの自伝的小説を本人の主演で映画化! 実になんと申しましょうか21世紀の『典子は、今』とでもいうべきエクスプロイテーション魂炸裂の一本が登場。これが映画だよ! みんな、乙武君の驚異の身体能力をスクリーンで見たいと思っていただろう? その夢がかなうときがついに来たのだ!
四月。五年三組の教室にあらわれたのは電動車椅子に乗った手足のない赤尾先生(乙武洋匡)。隣には介助役の助手として白石先生(国分太一)がついている。実は国分くんと乙武くんは幼なじみ。かつて教師を志したがモンスターペアレントからのクレームに心折れて教育委員会に転身した国分くん、教師になりたいという乙武くんの夢をかなえるために介助助手をつとめ、一年間の時限つきで乙武くんの教師という実験にとりくむことにしたのである。
その異形の姿に驚く生徒たち。給食時間には乙武くんの鮮やかなスプーンさばきに釘付けだ。積極的にコミュニケーションをとろうとする乙武くんは、椅子とホワイトボードを校庭に持ち出して花見授業。さっそく校長(余貴美子)から「授業は遊びじゃありません!」とおしかりを受ける。国分くんは恋人の榮倉奈々が働くお好み焼き屋で乙武くんと痛飲。ちなみに奈々ちゃんは乙武のフォローに夢中で自分をほったらかしの国分くんにちょっぴり不満だ。あの二人、抱き合っちゃったりして……
コミュニケーションを取ろうと懸命な乙武くん、放課後にサッカーしている生徒たちの中に混ざり「先生も入れてくれよ」と言うものの、「ぼく、やーめた」と一人減り二人減りして乙武くんひとりだけに。まさかのハミコ状態。一方、クラスではぶーちゃん(デブ)の上履きが何者かに隠される事件が発生する。勝手気ままに発言し、バラバラになってしまうクラスを危惧した乙武先生は、運動会の徒競走14種目のすべてで一位を取ったらなんでも言うこと聞く、と申し出る。生徒たちの出した答えは……坊主! かくして生徒たちは一丸となってトレーニング……するのは国分くんの方で、だって乙武くんランニングにも階段の駆けあがりにも参加できない。運動会当日、見事三組は13連勝して最後の競争、挑むのはこれまで校内一の駿足だったが転校生が来て負けてしまったことでスネてしまい、だがクラスの仲間たちと頑張るコーヘイだ。必死に走るコーヘイだがゴール前で転校生に抜かれ二位。慰めようとする乙武くんを制して、国分くんが肩を抱いて慰めてやる。
ちょっと待って欲しい。たしかに乙武くんは足がないから走れないし、手がないから肩を抱くことはできない。でもこれじゃあまるでただの置物じゃないか! これ、主人公が国分くんであることにも問題があるのだが、クラス内のさまざまな問題も、ほぼ生徒たちが勝手に発言して討論で解決してしまうのも少々疑問である。乙武くんがただの置物になってしまうのだ。誤解なきよう言っておけば、子役たちの演技は素晴らしく、長回しで芝居をさせ、子役はいい顔を抜いてつなぐ(たぶん、演技よりも表情を重視している)という手法も巧みである。後半に登場する、一緒に自転車で帰る子供たちが一人ずつ減っていく場面は記憶に残る名シーンだ。
(残り 1475文字/全文: 2840文字)
この記事の続きは会員限定です。入会をご検討の方は「ウェブマガジンのご案内」をクリックして内容をご確認ください。
ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。
会員の方は、ログインしてください。
タグマ!アカウントでログイン
tags: 乙武洋匡 余貴美子 加藤正人 国分太一 廣木隆一 東京都指定優良映画 榮倉奈々 清水素延 田口トモロヲ
外部サービスアカウントでログイン
Twitterログイン機能終了のお知らせ
Facebookログイン機能終了のお知らせ