【無料記事】「ヘイトスピーチ解消法」施行を前に — ウェブマガジン開始のごあいさつ
■ ヘイトスピーチを解消するために
「法ができて喜んでいる子どもたちをがっかりさせたくないんです。助けてください」
同署幹部に涙声で訴えたのは、在日コリアン3世の崔江以子(チェ・カンイジャ)さん(42歳)だった。崔さんらが暮らす川崎の桜本地区は、関東でも有数の在日コリアン集住地域として知られる。そのために何度もヘイトデモの標的にされてきた。
デモ隊に直接、「やめてほしい」と伝えたこともあったが指をさされて笑われた。
「いつか本当に殺されてしまうのではないか」と絶望を感じたこともあったという。
だからこそ、生活圏に土足で踏み込むようなヘイトデモをなんとかしてほしいと行政に訴え続けてきた。しかし、そのたびに「デモをやめさせる根拠法がない」のだと告げられてきた。煮え湯を飲まされ続けてきた崔さんにとって、新法はひとつの希望だ。
かつて、崔さんは解消法が審議されている国会に参考人として呼ばれ、「差別の問題に中立や放置はあり得ません。差別を止めるか否かです。国は差別を止めていません。それは、本当に残念ながら差別に加担していることになります。差別撤廃に国と地方公共団体が責任を持つ法案をぜひ成立させてほしい」と呼びかけた。
その願いが叶った──そう信じたい。

神奈川県警川崎署にヘイトデモ対策の要請書を手渡す崔江以子さんら市民団体メンバーと有田議員
地域住民を守るという使命を、地方行政は、警察は、そして国は、きちんと果たすことができるのか。
崔さんだけではない。被害を受け続けてきた人たちが、沈黙を強いられてきた人たちが、まるで医師の顔色をうかがう患者のような表情で、「果たすべき役割」を見守っている。
何度でも繰り返す。ヘイトスピーチは人の心を壊し、地域や社会をも壊していく。「愛国」とも「郷土愛」とも無縁の暴力だ。
それを「解消」すべく理念を、日本社会は高々と掲げたのである。
後戻りは許されない。
(追記)川崎市桜本の社会福祉法人青丘社が、事務所の半径五百メートル以内で、ヘイトデモを主催する男性のデモを禁じる仮処分を申し立てていた件で、本日(6月2日)、横浜地裁川崎支部は申立てを認める決定をした。
中原区内で予定されているデモについて神奈川県警中原署は私の問いに次のように答えた。