「ノンフィクションの筆圧」安田浩一ウェブマガジン

【無料記事】沖縄にも保守系の新聞は存在した

 すべてが終わったわけではなかった。

 『時報』をひきつぐ形で新たに『沖縄経済新聞』が立ち上がる。新しい社主は前述した宜保俊夫で、仲村さんも彼のもとに移った。相変わらずの「反共路線」で、仲村さん自身も一時、社長の座に座ることにもなったが、経営が好転することはなかった。その後、さらに『沖縄新報』と題字を変え、韓国『釜山日報』のOBで独裁政権を批判して南米に逃げていたという経歴を持つ松村泰慶(韓国名・全泰慶)が社長に就任したりと、二転三転の迷走劇は続くわけだが、結局、どれもうまくいかない。『新報』『タイムス』と互角に戦える新聞は、結局、これまで生まれることはなかった。

 これら保守系紙を渡り歩いてきた仲村さんは「それが読者の選択であれば仕方ない」のだと淡々と述べる。

「私はいまでも保守の立場であることに変わりはない。そうした考え方が反映された新聞があってもいいと思っている。しかし、新聞を選ぶのは県民です。いまある市場が崩れないのは、それもまた県民の意思だということですよ」

 ちなみに「保守であり続ける」仲村さんは、いま、定期的に辺野古に通っている。キャンプシュワブのゲート前で、辺野古新基地建設反対の座り込みに参加するためだ。

「翁長知事と同じですよ。保守だからこそ、郷土のために、あらゆる理不尽と闘わなくてはならない。わたしはそう信じているんです」

仲村さんの「反骨」は生き続けている。

 

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