「ノンフィクションの筆圧」安田浩一ウェブマガジン

差別扇動に加担した公共施設『ウィルあいち』の失態 ヘイト「主戦場」となった愛知県の今


愛知県庁

知事は「法的措置の可能性」に言及

 10月27日に愛知県の施設『ウィルあいち(愛知県女性総合センター)』(名古屋市東区)で強行された日本第一党主催のヘイト展示会に関し、同県・大村秀章知事は展示内容を「ヘイトスピーチにあたる」との認識を示した。
 発言があったのは29日の定例記者会見。
 発表事項についてのやり取りを終えたところで、知事に向けて今回の問題についての質問があった。 

 記者 『ウィルあいち』で開催された展示会について。展示内容から差別扇動との指摘もある。現場からは即刻中止を求める声があったというが知事の考えは?

 大村知事 「内容についてはいろいろ基準があると思うが、私は、あの内容は報告を受けた感じで言えば、ヘイトにあたるのではないかと思っている。その場で中止を指示すべきであったとも思っている。ということで、現地での対応は不適切だったと考える。今後、どのように毅然として対応すべきか検証していく。法的手段も含めて検討するよう指示した」

 記者 事前規制は難しいと思うが、向こうの団体に関して、なんらかの対応を求めるのか。今後はどうするか。

 大村知事 「(質問の)前段部分は法的措置を講じることが可能かどうか、適切に検証したい。後段部分だが、事前に内容すべてを見せろと言えるのか、そこがなかなか微妙な点。こうした活動をされる方は確信犯で、悪意をもって故意にやっている。それをどう防いでいくのか、正直難しい課題であることは事実。お知恵をいただきたい。内容からして明確にヘイトにあたると言わざるを得ない。それが分かった時点で中止を指示すべきだった」

 大村知事は展示を「ヘイト」だと断言したうえで、法的措置の可能性に言及したのである。
 首長の判断としては当然のことだ。まったく正しい。ここはぜひとも踏み込んだ結論を期待したい。
 だが、事後の判断だけが「基準」となるのであれば、同様の事態は今後も起こりうる。
 さらには、自治体職員のヘイトスピーチに対する意識は、まだまだ知事には遠く及ばない。というよりも、「ヘイト被害」「地域破壊」といった認識に至っては不十分極まりない。

ヘイトスピーチに該当するか判断できない」行政

 知事会見の前日(展示会開催日の翌日)、私は愛知県庁を訪ね、担当部署を取材した。
 以下、そのときのやりとりである。
 応対してくれたのは男女共同参画推進課の担当職員だ(同課は『ウィルあいち』の施設管理に責任を持っている)。

愛知県庁別館(男女共同参画推進課の入る建物)

 ──「昨日『ウィルあいち』でおこなわれた日本第一党の催しについて、施設管理の観点から見解をうかがいたい。まず、展示内容については確認しているか?

「展示内容に関しては一部、わかっているものもある」

──これは『差別的言動を禁じる』という利用規約に触れるのではないのか? 確認した時点で中止を申し入れることもできたはずだ。

「昨日の時点では(規約違反に)該当するかどうかは判断できなかった」

──なぜ、判断できなかったのか。(写真を示したうえで)、これは明確なヘイトスピーチ、差別扇動に該当する。現場の職員も現認されているはずだ。

「このカルタだけを見て、法令上、ヘイトスピーチに該当するのかどうかは判断できない」

──しかし、繰り返すが、この文言は明確なヘイトスピーチ。その認識を持つことができないほうがおかしい。

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