「差別」が裁かれない理不尽 ウトロ地区・名古屋連続放火事件第3回公判再現記録
裁判官が、被告に証言台前の椅子に座るよう促した。
「これで審理を終わりますが、最後にあなたのほうから何か言いたいことがあれば、話してください」
刑事裁判における最後の手続き、被告による最終陳述の場面である。
今回の裁判では、公訴事実に争いはない。こうした場合、被告が反省や被害者に対する謝罪などを述べ(たとえ形式だけのことではあっても)、同じ罪を繰り返さないことを誓ったうえで結審となることが多い。
「あらためて私のほうからこの事件について弁論をおこなうつもりはございません」
被告の口調はこれまで同様に淡々としたものだった。
だが、それで陳述が終わることはなかった。
「ただ、最後にひとことだけ述べておきたいことがございます」
おそらく、その瞬間を待っていたのだろう。沈黙を強いられていた者が、ようやく解き放たれた場所を得たかのように、言葉が堰を切ってあふれ出す。
そこから始まった「ひとこと」に、法廷は愕然とした。いや、ある程度予測していたとはいえ、まさか最終場面でこのような詭弁を聞かされるとは、誰も考えていなかったのではないか。
時間にして約3分の「ひとこと」を終えると、傍聴席からは「(検察官は)求刑をやり直せ!」といった怒号が飛ばされた。それは、反省どころか「次の事件」をも示唆する被告への怒りだった。
いったい、被告は何を語り、そして何を語らなかったのか。
名古屋の韓国民団施設、京都・ウトロ地区への連続放火事件(ヘイトクライム)などで非現住建造物等放火罪などに問われた男性被告(22歳・奈良県桜井市)の第3回公判が6月21日、京都地裁であった。
コロナ感染予防を目的とした傍聴制限は解除されたが、それでも地裁には約100人の傍聴希望者が集まり、これまで同様、傍聴券の抽選が行われた。
開廷は午前11時。検察官による論告求刑に先立ち、放火被害者による意見陳述がおこなわれた。
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