クルド人差別の風景 安田浩一篇
川口市(埼玉県)が毎年発表している統計データ「国籍別・外国人登録者数」では、2004年まで「トルコ国籍」は空欄になっている。翌05年、初めて同国籍の住民が224人であることが記載された。
今年1月現在のデータによると、同市のトルコ国籍者は約1千200人。この10年間で5倍以上の増加を見せた。よく知られた通り、トルコ国籍者の多くがクルド人である。
いま、人口約60万人の川口において、外国籍住民は約4万3千人。国籍別にみると、その半数は中国人で、以下、ベトナム、フィリピン、韓国・朝鮮、ネパールと続く。トルコ国籍者は、外国籍者のなかでもけっして多数派ではない。近隣の蕨市、さいたま市、越谷市、草加市、さらには住民票を持たないい人々などを合わせれば、埼玉県南部のクルド人人口は約2千人と言われるが、この10年で急増したとはいえ、全人口からすればたいした割合でもないのだ。
だが、いまやクルド人は差別と偏見に満ちた“ヘイト攻撃“を受けることで、あまりに理不尽な存在感を見せつけることとなってしまった。
ネットではクルド人に対するヘイト書き込みが後を絶たず、同地域では毎月のように、「クルド人追放」を訴えるレイシスト連中の差別デモが繰り返される。クルド人経営の解体業者や飲食店でも嫌がらせは絶えない。
圧倒的少数派であるクルド人が、まるで地域を暴力支配しているかのような印象を、一部のネット言論やレイシストが流布させているのだ。
解体業を営むクルド人のKさん(52歳)は、この1年、うんざりするようなヘイト攻撃で、心身をすり減らしてしまった。
「疲れてしまいました。考えたくもないが、どうしたって差別されているという現実を考えてしまう」
もっともつらいのは、大学生の長女が、クルド人差別に苦しんでいる姿を見ることだ。
「SNSに目をやれば、クルド人バッシングの書き込みが飛び込んでくる。『パパ、クルド人は日本人に何をしたの?』と娘が怒ったように訊ねてきたこともあった。日本生まれの娘は日本人とともに学び、生活してきた。だから、SNSの書き込みに過敏になっている。私は『日本人に何もしていない』と答えるのですが、そのうち娘は何も訊ねてこなくなりました。そして、いまではそれを話題にすることはない。いや、娘がSNSで傷ついていることは知っているのですが、お互いにそのことには触れないようにしているんです」
家族でクルド人差別について話をしても、出口のない状況を嘆くだけで、何の解決策も見出す事は出来ない。長女は生まれ育った日本と、クルド人という属性の狭間で苦しむだけなのだ。
Kさんは朝5時から夕方まで働き、毎晩9時にベッドに入る生活を続けている。
「働いているだけ。生活しているだけ。30年間、ずっとそうしてきただけなのに……」
呻くように話すKさんの言葉は、多くのクルド人が共通して抱えるものだ。
撮影:秋山理央
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