限界突パ

ルーキーとは思えぬマウンドさばき… 楽天ドラ1・荘司康誠は、なぜクレバーなスタイルを確立できたのか?<SLUGGER>

「プロの洗礼」というと常套句すぎるか。

 楽天のドラフト1位ルーキー荘司康誠が、ここ2試合続けて勝利投手の権利を得ながらも、いまだプロ初勝利がお預けとなっている。

 4月30日の西武戦では6対2と大量援護をもらい、6回からリリーバーにバトンタッチしたが、西武打線が後半粘って9回に同点とされ、白星は幻に。中6日空けて登板した5月7日の日本ハム戦でも6回を投げ切り、この時点で2対1とリードしていたが、終盤に逆転されて、またも白星はつかなかった。

 「松井(裕樹)さんからはごめんなと言われました」

 4月30日の試合後、先輩とのやりとりを荘司は残念そうな顔を見せずに淡々と振り返った。記者から「1勝を掴む難しさを感じたのではないか」という質問が飛んだからだ。「もともと、簡単に勝てるとは思っていない」とサラッと答えたのは強がりではない。プロでの1勝よりも、いかに将来エースへと育つか。それだけの期待を背負っているからだ。

 それほど荘司のピッチングには魅力があった。

 ストレートの最速は150キロを超えたあたりで推移し、長身から投げ下ろすボールには角度がある。変化球はカットボールとスプリット、カーブを投げ分ける。

 荘司の持ち味は、一つの球種に頼りすぎないところだ。すべての球種でカウントを整える。どれも勝負球にもできる。

 だからこそ、試合をうまく組み立てられるのだ。

 30日の西武戦ではストレートは切れていたが、スプリットはそれほどもないと判断すると、カーブを効果的に使った。

 「今日はカーブがいいなと思ったので切り替えましたね」

 4点を先制した直後の4回裏には、中村剛也に本塁打を浴びるなど2点を返されたが、そのあとの無死三塁のピンチから2者連続三振。最後の金子侑司はカーブを3つ続けてライトフライに打ち取った。

 投球次第では試合が大きく動くこともあり得ただけに、この場面のピッチングは圧巻だった。5回にも1死満塁のピンチを招いたが、前の打席でタイムリーを浴びていた呉念庭を、やはりカーブで三振に斬って取る見事なピッチングを見せた。

 ルーキーとは思えない、「切り替えのできるピッチング」には、荘司の野球観の高さを感じずにはいられない。

 7日の日本ハム戦では6回1失点の好投。異彩を放ったのは無死三塁の5回裏だった。1点は仕方ないという場面、しかも打席にいた9番・江越大賀の猛烈な粘りにあって15球を要したが、荘司は根負けせずに三振に打ち取った。

 もし四球を出していたら、そのまま上位打線につながる場面。大量失点も免れなかっただけに、この三振は大きかった。マウンドで何をすべきかをしっかり理解している、クレバーなスタイルの投手と言えるだろう。

 もともと荘司は、自身で考えてやるタイプの選手だ。

 名門・新潟明訓高の出身だが、高校3年時は春夏ともに県大会初戦敗退。チーム作りがうまくいかず、荘司のポテンシャルも生かされなかった。文武両道のチームの考え方もあって、勉強で手を抜かなかった荘司は指定校推薦を勝ち取って立教大へ進学した。

 自力で名門の扉を叩けるだけの学力があり、本を読んだり勉強したりするのも苦ではない。文武両道の重要性はあらゆるところで唱えられるが、それは単に「学業成績が良い」というだけではない。勉強する習慣を持っている人間は、何かにつまずく時が来たとしても、しっかりと自分で立て直すことができる。

 大学進学後に右肩を故障した時も、トレーニング本などで体の動きを理解した。腕利きのトレーナーとの出会いもあって、自分で考えながら成長を遂げることができた。3年秋に頭角を表すと、4年春にはエースに。1学年下には甲子園を沸かせた有名な投手もいた中で、進学時は無名だった荘司は大学トップクラスの投手となり、ドラフト1位指名も勝ち取ったのだ。

 荘司は自身の野球人生を振り返ってこう語っている。

 「野球の練習の中には『うーん、これは? どうなんだろう』と思うことも時にはありますけど、受け取り方は人ぞれぞれで、それをどう生かすかで変わると思うので、自分で考えながらやってきましたね。時に細かすぎるとか、考えすぎと言われることもありましたけど、自分の持ち味と思って活かしてきました」

 マウンド上でのクレバーなところは、頭脳をしっかり使えていることに他ならないだろう。また、グラウンド外においても「1勝の難しさ」や「プロの洗礼」などとルーキーは何かと騒がれることは多いが、それらも想像の範疇内のことで、そこだけで一杯一杯になるわけでもなかった。

 とはいえ、勝利を挙げられなかった現実は直視している。

 西武戦後、こうも語っている。

 「1勝を挙げることは簡単なことではないと思っていましたけど、やっぱり、少しの気も緩められない。ずっと集中して自分のベストパフォーマンスを出さなきゃ勝利につながらないというのは感じたので、次の試合に生かしていきたいですね」

 楽天の大卒ドラフト1位ルーキーというと、どうしても13年に新人王を手にした則本昂大の姿を想像してしまう。同様の高いハードルを設定されて、思うように成績を残せない投手は過去にもいた。だが、これまでの荘司の話を聞いてもらえれば、則本とはまるでタイプが異なることが分かるだろう。

 「ピンチのところでしっかり低く集めて投げ切ってくれた。そこから先を許さないというのは投手にとって大事ことなんで、それはできていた。引き続き粘っていく中で、学んで数多く勝てるようになってほしいですね」

 石井一久監督が荘司についてそう語っているように、則本のように1年目から主力としてバリバリ活躍してほしいとは考えていないだろう。いずれエースになる素材であることは間違いないが、まずは学びながらエースになってほしいと願っているはずだ。

 初勝利はやがてつくだろう。それよりも、荘司には「いずれエースになる」大きな器があるということを忘れてはならない。

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