西武・飯田光男本部長が語るライオンズの未来予想図。「勝利至上主義のスポーツ界で失敗を受け入れる寛容な組織風土で勝利の確率を上げる」【開幕前 緊急インタビュー前編】
いよいよ2024年のシーズンが3月29日に開幕する。キャンプインからこの日を待ち侘びたファンも多いことだろう。それはシーズンを戦う選手や監督、チームスタッフも同じで、昨季が終わった時から今季へ向けて準備してきた。そんな来るべきシーズンに向けて、今回は西武の球団本部長を務める飯田光男氏のインタビューに成功した。「昨季は騒々しいシーズンだった」と思うようにことが進まなかったと振り返るが、悔しさが大きい分、今季にかける思いも強い。「優勝しか考えていない。V字回復する」と熱く語ったその真意を尋ねてきた。(取材・文 氏原英明)
ーー飯田本部長は元々鉄道、そうでいらっしゃったんですね。
飯田 はい。新卒で西武鉄道に入りました。
ーー受けようと思ったキッカケはあったんですか?
飯田 鉄道業界以外も受けました。ゼネコンとか、重工業、鉄鋼業界など。一番最初に決まったのが西武鉄道ですね。野球の仕事をするというのは想像していませんでしたけど、会社に入る時点でライオンズがグループにあるのは意識していました。鉄道業界は他も何社か回りましたけど、西武球団があるのは一つの魅力でした。そこで働けるっていうイメージまでは持ってなかったですけどね。
ーーそれは突然のことだったんですか。ライオンズに来る流れみたいなのがあったんですか。
飯田 私が着任したのは2015年でした。後藤オーナーが親会社である西武ホールディングスの社長でしたが、人事異動でライオンズへ出向と言われ非常にびっくりしました。最初は管理部門の担当役員で、2017年に球団本部の担当役員になりました。当時の球団本部長は鈴木葉留彦さんがされていました。球団本部長は2019年からです。
ーー世の中の人は一般的に本部長ってどういう役割になるのかなっていうのがわからない。具体的にいうとどういうことになりますか。
飯田 球団本部の役割は、選手やチームスタッフに関すること、チームの戦う環境に関すること、何よりもチームが優勝する、常勝軍団になるために必要なことを考え、実行することです。その責任者というところですね。
ーーチームの編成がいるじゃないすか。編成が決めるようなことの最終決裁は本部長ですか。
飯田 組織図で説明すると、球団本部長のもとに、編成部門があったり、1軍があったり、ファームがあったり、ハイパフォーマンス部門があります。本部長の私は、渡辺久信GMと全体のことを考えています。GMは自分と全く違うキャリアをたどってきているので、それぞれの知見から、球団本部のいろんなことを考え、決定し、進めています。
ーーGMとは横並び状態ですか。一応縦関係ですか。
飯田 組織図上は縦関係ですが、しっかりコミュニケーションをとりながら、いろいろな仕事に一緒に取り組んでいます。
ーー2019年あたりからいろんな改革もされてます。「育成のライオンズ」と言うのが一つの肝になっていますが、どう言う経緯で育成に舵を切るという方向に進んだんですか。
飯田 2019年から私が本部長になったのでそれも一つあると思いますが、チームを強くする、常勝軍団を作るということがやっぱり目標にあります。そのためには、良い選手を取ってくるということだけじゃなくて、獲得した数少ない選手を育てる、成長させるということが重要です。これからはそこが球団の力の差になってくるだろうと。選手を成長させて、いい戦力とすることが、これからのカギになると考えました。そこから「育成」の考え方をアップデートしました。今の球団本部の指針としては、今までの常識とか、野球界の慣例にとらわれず失敗してもいいので、新しいことをどんどんやって、失敗したらまたそれを糧にして新しいことをすればいい。そうして意見がどんどん出てくるような環境作りっていうのも私の役割としています。
ーー環境作ると言うのは具体的に言うと。
飯田 私はずっと野球界にいたわけではありません。スタッフは皆、野球に詳しいスペシャリストです。そのスタッフたちもさらに成長させる。私が球団本部長になったのと同時にシニアディレクターだった渡辺久信氏にGMになってもらって、GMと相談しながら、どんどん新しいことに取り組んでいこうと。それからは、いろいろな考えや発想を持ったスタッフが多様なアイディアを持ってきて、改革の流れが加速されてきました
ーーどっちかというと飯田さんは、そうした方々に、企画をどんどん出してくれみたいな空気を作った。
飯田 そうですね。企画を出しやすい雰囲気を作り、どんどん責任を持ってやってみろという意味で、それなりの立場にして任せたということもあります。
ーーアイディアとして出てきたものを実現してきた。
飯田 どうすればできるのか、どういう方向にしていくかをGM、関係するスタッフたちと話し合ってこれでいこうと決めてスタートしています。
ーー今、いろいろ出来上がってるのはいろんな議論があって、通り抜けてきたものなんですね。
飯田 これは駄目あれも駄目っていうのはそう多くないですね。それなりに形になって出てきたものを、まずはやってみようと。
ーー育成においてもっと確率良くするために取り組んでいる
飯田 再現性を高めるというか。そのときの運頼みで強くするのではなくて、ちゃんと球団が意図して、スタッフや仕組み、環境、そして組織。いろんな面で選手が育って成長していく環境を作って、少しでも成長する確率を良くする。これをやったからこれだけ強くなったということはなかなか難しい世界ですけど、かといって、育成を強化するための策を何もやらないっていうのもよくない。育成を強化する、少しでもチームが勝つ確率を高くするための取り組みをしていく、そういった環境を作るということが自分の役目でもありますね。
ーー指導者の研修なども積極的に行い、それを育成に繋げていく。これを結果に繋げていくのはこれからだと思うんですけど、今出来上がってる組織に関しては、想像通りというか、うまく進んでいますか。
飯田 そうですね。すごくいろんなところが変わってきて、取り組みに関しては、選手も成長しているし、スタッフもみんなしっかりと成長しているのは実感しています。あとはそれが優勝という結果になってほしいですね。今はその地ならし、土壌作りが整ってきているという実感はあります。
ーーキャンプ前に熊代さんをインタビューさせてもらって、1年目なのにしっかりしているなという印象を受けました。研修の成果を感じます。
飯田 指導者の役割は技術を教えるだけでなく、選手の成長の加速度を上げるという考え方です。ティーチングじゃなくてコーチング。指導者は選手からいろいろなものを引き出して、選手自ら伸びていく力を加速させるためにどう取り組んでいくかというところですが、熊代コーチは吸収力が素晴らしく、学んだことをすぐに行動に移している姿は頼もしくみえますし、取り組みの成果が出ている実感があります。
ーー1月31日に全体研修をされていました。コーチだけでなく、スタッフも含む総勢約130名が参加したということで、チーム全体で人財の質を高めたいというメッセージを感じました。野球界では2月1日がキャンプインというのが通例ですが?
飯田 キャップインが2月6日だったこともあり、この時期の実施にいたりました。選手たちは、オフの間、自主トレをやっています。2月1日キャンプインだと1月いっぱい自主トレができず、早く切り上げないといけない。そうすると自主トレの期間が短くなってしまいます。選手たちは1人1人しっかりと考えて、自分に合ったトレーニングをやっているんですよね。だから、仕上げるところまでは任せた方が良いということもあり、2月6日のキャンプインにしました。キャンプイン初日にみんなに会うと、仕上げてきているなと感じますし、始動が遅くなるということではなく、選手たちを信頼しているからこそ、1月31日に研修会ができているということです。
ーーチーム全体が参加する研修会の時間を作っているのを見ると、ライオンズが今、何を大事にしてることを感じました。指導者をちゃんと育てないと、結局は、意味がないというか。
飯田 指導者だけではなく、スタッフも全員育てる。1人1人のコーチだけが選手に向き合うのではなく、監督・コーチに加えて、バイオメカニクス、ハイパフォーマンス部門やスコアラー、スカウトなど、すべてのスタッフが選手を中心にして、みんなで会話できる。共通言語で会話できるという体制作りをしています。スタッフにも、勉強してもらい、世の中の動き、新しい技術・考えに合わせて、自分の担当じゃない分野のことも知ってもらおうということで、今回の全体研修はいい機会になりました。来年以降も続けていきたいと思います。
ーー2月6日キャンプインについていろんな言われ方もしてると思うんですけど、でも実際2年連続でやってみて、選手の自立感とか、そこら辺はいかがですか。
飯田 手応えはありますね。今のところ、キャンプインを戻さなければいけないというのはなくて、いろんな考え方を整理、検討して、来年については決めていきます。
ーーメジャーリーグとかだったら、もっと遅い時期からキャンプイン。いきなり試合するぐらいの勢いなんすけど、そこまで振り切るっていうところはいかがですか?
飯田 そこまで振り切るっていうのは今のところは考えていないですね。
ーー全チームが同じ日に始める必要はあまりないですよね
飯田 そういうところも、当たり前とか常識とか、これまでの野球界の慣例にとらわれずに、勝つために必要なことをピックアップして、色々な選択肢をもってやっていこうっていう考え方です。勝つためにはこういうやり方もあるよねっていうところですよね。(後編に続く)