ファーストミーティング② 少人数チームだからこそ━━阿蘇中央(前編)
━━熊本市内から40kmほど離れた自然豊かな阿蘇地区ですが、近年は人口減少に悩まされています。チームも部員確保に苦しんでいるそうですね。
「今年の夏が終わって選手14名で始動したのですが、これは私がこの学校に赴任して以降、新チームスタート時点では最多の人数です。昨年のこの時期が10人。一昨年とその前の年が8人。当然、秋の大会は助っ人を借りての出場です。10人だった昨年も、万が一に備えてふたりの野球経験者に手伝ってもらって秋を戦っています。とにかくこの地区は子供の数が減っており、今までは地区8校で戦っていた中体連も、今年は単独で出場できた学校が阿蘇中のみです。3校合同が2チームあり、野球部自体が無くなってしまった中学校もあります」
━━そのような環境では、少人数の大変さを突き付けられる一方で、勝ち負け以上の価値を感じることもあるかと思います。
「野球の競技人口減は、私たちのような学校が一番痛切に感じているかもしれませんね。それでも私としては、あくまで単独で出続けたいと思っています。たしかに連合チームなら地区の選抜ですから、上手くいけば勝ち上がっていくこともあるでしょう。それよりも、私は単独チームのみんなで工夫をしながらやっていきたいのです。ウチの場合は高校から始めた野球初心者もいます。そういう子供たちと成長をしていき、ともに日々を過ごしながら最後の夏を戦うことを続けていきたいし、彼らにとってもその過程は大きな財産になると信じています。初心者の子が少しずつ野球を覚えていき、初めてヒットを打った時などは格別の喜びがありますからね。だから、高校で始めてくれた子供たちが野球を辞めることのないように、いろんな野球の楽しさを伝え続け、どうすれば引退の時に“野球をやって本当に良かった”と思ってもらえるかを考えるようになりました。こんなことを言うと、逃げの文句に聞こえてしまうかもしれません。でも、それ以上に大事なことがあるのではないかと思えてきたのは確かです。もちろん勝ちたいですよ。“勝って学べるものがある”ということを、勝って教えたいですよね」
━━選手を指導するうえで、もっとも重視していることは何ですか?
「これは野球にかぎった話ではありませんが、子供たちの成長に繋がるベストの方法をチョイスしていかないといけません。そのために私が一番大事にしているのは、生徒のやる気、モチベーションをいかに引き出していくかということです。コツはこちらが生徒の話を聞く姿勢を見せることでしょうね。だからこそ対話を大事にしないといけません。ただ、現状は生徒の方から何かを言ってくることは少ないですね。彼らがそういう行動を起こす前に、こちらが答えを言ってしまっているからなのかな、と反省の日々です」
━━今年の新チームはキャプテンの指名も新しい方法を採ったそうですね。
「夏の大会が始まる前に、2年生の齊藤翔馬を後継キャプテンに指名しました。夏も試合に出ていた選手ですが、とにかく性格が引っ込み思案なんです。だから“次は俺が引っ張っていかないといけないんだ”という自覚を持って夏の大会に臨んでほしいと思い、このようなやり方を採用してみました。以前は2年生が日替わりキャプテンをすることで、キャプテンの大変さを感じてもらい、その後にみんなで話し合いをさせて私に提案するという形を取っていました。赴任1年目は3年生に指名させました。赴任から3か月しか見ていない私よりも、彼らの目の方が確かだと思ったので」
━━秋、そして来季に向けてどういうチームづくりを進めていきますか?
「まずは自分たちの弱さを自覚することが第一でしょうね。弱さを自覚できれば、一生懸命ひたむきにやっていくしかないと思うはずですから。そうやって個や組織を強化しながら、自分たちのミスで自滅することがないように鍛えていきます」
◆Profile
德永寛毅(とくなが・ひろき)
1974年1月26日、熊本県熊本市出身。東稜~鹿児島大。現役時代は外野手。大学を卒業後、阿蘇、熊本農で部長を、鹿本で監督。県教委勤務を経たのち熊本第一で部長。野球部のほかにも柔道部、バレー部、水泳部で顧問を経験。2021年春から阿蘇中央で監督を務める。数学科教諭