今明かされるラブホの秘密-歌舞伎町のラブホテル全制覇 1-[ビバノン循環湯 24] (松沢呉一) -4,539文字-
2010年にメルマガに書いたものです。大層なタイトルがついてますが、歌舞伎町の全ホテルを利用したわけではなく、3時間ほどかけて歌舞伎町のラブホ調査をした時のものです。ここに書いたことはたしかに今まで誰も調べていないことかもしれない。調べる必要も調べる気もなかっただけでしょうけど。
T-1グランプリはなべやかん主催のイベントで、さまざまな職業の人たちが、その職業についてのトークを競うもの。私が審査委員長をやってます。これに出た人たちが次々と亡くなっており、今回の原稿に出ているビタミン三浦さんもその一人です。祟られているとか、呪われているとか、そういう類のことだと思います。
これまた長いので、3回に分けます(3回目は付録みたいなもの)。
客が入るラブホの工夫
昨年暮れの「T-1グランプリ」のグランドチャンピオン大会に、ラブホテル・プロデューサーのビタミン三浦さんが出演した。
ラブホを舞台にした怪談話が抜群に面白かったのだが、三浦さんは会場の空気を読み間違えて、「受けていない」と勘違いしたようだ。受けていないのでなく、会場は怖くてシーンとなっていたのだが、三浦さんは、そこからラブホテルの裏話にテーマをスライド。それもまた面白かっただが、重くなった空気を元に戻せなかった。どちらの話も面白かっただけに、もったいないことをした。あれは逆の展開の方がよかったかと思う。
ラブホ業界特有のノウハウとして、「ラブホの入口は上がるよりも下がる方が客が入ると」いう話があった。これからセックスをするカップルは目立つことを嫌い、下がっていく入口のラブホを無意識のうちに選ぶのである。
「気づかないところで我々の行動は規定されていて、ラブホはそこまで計算して商売をしている」という、あの話が私は好きで、Twitterでもそのことを呟いた。
それを見て、私同様にこの話に興味を抱く人、納得する人が多く、身体障害者セクシュアリティ支援NPO法人「ノアール」の代表である熊篠慶彦君は「印象としては9割が下がってます。平坦はあまりない」と呟いていた。
彼は身障者のためのラブホガイドをやっていて、ラブホには詳しいし、車椅子にとって段差は鬼門だから、健常者の比ではなく観察をしているはずだ。
ラブホの入口は下がっている方が入りやすい?
数字はともあれ、私もたしかに「上がっている」より「下がっている」方が圧倒的に多い印象がある。だからこそ、三浦さんの発言に深く納得したのだが、たまたま百人町を通りかかった時に、数軒のラブホの入口を見て回ったら、どうも私の印象とは違っている。
階段を上がって2階のフロントに行くラブホまである。それでも、たしかに「上がっているよりも、下がっている方が多い」とまでは言えそうではあるのだが、「圧倒的に下がるのが多い」とまでは言えない。フラットになっているラブホの方がそれよりさらに多いのだ。
三浦さんは、あの日、怪談話の「失敗」をどう回収したらいいのかで動揺していたし、「T-1グランプリ」で話したことが、こうも一人歩きをすることを想像はしていないだろうから、「事実か否か」より「面白いか否か」を優先した可能性もある。
百人町のラブホは古い。そういった智恵がまだ知られていなかった時期に造られたものが多いためとも考えられる。
それを確かめるため、新しい物件の多い歌舞伎町のラブホを調べてみようとひらめいた。なにかにつけ私はデータがないと落ち着かない。こんなん、データを出せばすぐわかることである。
とは言え、歌舞伎町すべてのラブホを調べるには数時間かかるため、なかなか暇がない。数時間くらい作れるのだが、そんなことのために「やるぞ」と思い立てないでいた。
歌舞伎町の全ラブホをカウント
新宿で用事を済ませて、さあ帰るかという時に、このことを思い出した。絶好のチャンスとばかりに歌舞伎町全ラブホ巡りを急遽実行した。
カップルの皆さんや従業員に不審そうな視線を向けられつつも、すべての入口をチェックしてメモをとり、あとで確認できるように、写真も撮った。3時間少々で、全制覇を完了した。
見逃したものもあるかもしれないが、歌舞伎町には73軒のラブホテルがあった。住所としての歌舞伎町から外れるラブホは外している。花園神社を少し北に行き、明治通りを横に入ったところにポツリとある「叶」や、ハイジアの横に並んでいる古いラブホ数軒もチェック。
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