パセラが作り出したトレンド-歌舞伎町のラブホテル全制覇 3-[ビバノン循環湯 26] (松沢呉一)-3,778文字-
前々回、前回の続きですが、歌舞伎町のラブホをひと通り回った感想みたいなものです。こっちは数字をとっているわけではなく、単なる印象なので、信用しなくていいかと思いますが、ざっくり歌舞伎町における昨今のラブホ事情はわかろうかと思います。このシリーズはこれでおしまい。Bali Anに行かなきゃ。
ラブホの様変わり
続いて、ここまでのテーマとは無関係に、今回の調査で気づいたことである。
10年くらい前まではゴールデン街の北側にも古くて小さなラブホがあっ たと記憶しているのだが、その場所はすでにマンションになっていた。また、ハイジア横にも広く空き地になっているところがあって、ここにもラブホがあったはず。
出口のないラブホ不況の時代だから、歌舞伎町でも、少しずつ数が減っているのだろう。
消えているラブホはまず間違いなく古いタイプだ。高度成長期に建てられた和テイストの建造物だったり。百人町にはまだこのタイプが残っているが、歌舞伎町では数えるほどしか見なくなった。
10年ほど前まで、区役所通りと明治通りの間にあるラブホ街には、高度成長期のラブホが多く残っていた。あの辺は人通りが少なくて目立たないため、ホストやホステスらもよく利用している。他の客に出入りを見られたくないためである。
それとともに年配の不倫カップルも多く、この層が古いラブホを支えていたのだと思う。私はあの辺の遺物感が好きだったのだが、それもほとんど消えて、昨今流行りの派手なラブホに建て替わっている。
この10年のラブホの潮流を見た時に、新しい動きとして注目すべきはまずBali Anである。ラブホが好きで、カラオケボックスではパセラのヘヴィーユーザーである私なのに、Bali Anは行ったことがない。悔しい。
歌舞伎町の中に、Bali An Islandというホテルもできていた。区役所通りと明治通りの間。知らなかった。
ラブホ不況の中、Bali Anの成功は画期的な事件だったわけだが、その成功は風営法上のラブホではなく、旅館業法のラブホ、つまり「偽装ラブホ」なのに、フロントを置き、対面接客をし、入口が外から見えるようにして、いわば合法の「偽装ラブホ」を堂々と展開したことにある。
この戦略は見事だし、今の時代にはこれが成立すると判断するだけの根拠があったのだろう。さすがにカラオケで若い層をつかんでいるだけのことはある。
パセラのもたらした革新性
客の側からすると、パセラの信用もあった。いかがわしいイメージもあるラブホにあのパセラが乗り込んだことが斬新に見えた。
そのことを伏せつつ、他業種がラブホを経営することは珍しくないわけだが、パセラが偉かったのは、そのことを堂々と打ち出したことであり、カラオケボックスとラブホをためらいなく合体させ、パセラにカラオケを歌いに言ってもBali Anの割引チケットをくれる。バリ・イメージだって、パセラのまんま。
私もBali Anはパセラだからこそ気になる。ラブホのカラオケは設備がひどいところが多い。さすがにもうレーザーのカラオケしかないようなラブホはほとんどないだろうが、 「もっとも安いセットしか入っていない」「曲目のリストが古い」「マイクが壊れている」「音響設備がひどい」などなど。
「これではセックスでもするしかないではないか」とガックリしたことが何度あったことか。おそらくメンテもなされておらず、マイクだって、マンコに押し付けたまま、消毒していないんじゃないか。
その点、Bali Anだったらさすがにそれはなかろうと思える。パセラ同様、DAMもJOYも歌えることが期待できる。さらに、パセラはメシがうまい。おそらくBali Anでも同レベルのメシが食えるのではないか。
利用したことがないので実際にどうか知らないし、こんなパセラのコアなファンの心理までを考慮したわけではないだろうが、若い世代のラブホイメージが変質していることを見据えて、パセラが経営していることを公開した戦略の勝利である。
そして、Bali Anはリゾート・ラブホ系の流れを生み出した。歌舞伎町ではなく、渋谷の方が多いと思うが、パセラ系ではないエスニック・リゾート・ホテルが目立ち、ラブホテル街には必ずと言っていいほど、このタイプの外装のホテルがある。
新たな非日常性を打ち出したKOGA設計
高度成長期の遊園地的非日常が受けなくなり、「ラブホらしくなく、一般のホテルに近づけよう」と考えた。これが1990年代のラブホのファッションホテル化だったわけだが、こんなラ ブホには行かない。だったら、プリンスや京王プラザあたりの昼間の時間を使えばいいだけのことで、ラブホには非日常性が今も必要なのだ。
非日常を思う存分味わうことのできる物件は、KOGA設計が得意とするところである。
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