松沢呉一のビバノン・ライフ

仁藤夢乃が語る虚構とは全然違う韓国・性売買特別法の現実—仁藤夢乃の発言は信用できない[4]-(松沢呉一)

仁藤夢乃は理解できていないようなので、おとり捜査が適正な捜査として認められる条件を説明しておく—仁藤夢乃の発言は信用できない[3]」の続きです。韓国の性売買特別法については、「韓国・性売買特別法についての事実を確認する—仁藤夢乃の発言は信用できない[資料編]」を参照してください。

なお、韓国について仁藤夢乃が書いていることに怒っているのは私だけでなく、遠からず、より正確な批判が出ることになりそうです。私はGiantGirlsの代表+1名の発表を台北で観たのと、来日したそれとは別のGiantGirlsのメンバーの話を聞いたのと、ソウルの歓楽街を軽く見て回ったのと、映画を何本か観ている程度ですので、詳しくはそちらを参照していただいた方がいいのですが、私は私で今わかる範囲で批判を続けます。間違いを書いているかもしれないので、気づいた方はご指摘ください。

 

 

仁藤夢乃のツイートはデタラメの寄せ集め

 

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「韓国・性売買特別法についての事実を確認する—仁藤夢乃の発言は信用できない[資料編]」で、韓国の性売買特別法の経緯と、その反対運動や弊害についてざっと説明しました。

では、性売買特別法について仁藤夢乃はどう言っているのか。

 

 

すべてデタラメであることを以降説明していきますので、全文引用します。

 

許せない事件。性売買女性が殺害されるのは何度目か。そのことをどれだけの市民が覚えているか。いつ殺されてもおかしくない状況で、生きるために今日も出勤するしかない女性がたくさんいる。

日本社会では買春があまりにも当たり前になっている日本では、こうした事件が繰り返されてもほとんどの市民が声を上げない。

韓国では性売買女性が殺されたらあらゆる女性団体が連帯して多くの市民が声を上げ、性売買防止法の制定にも至った。

女性を買える、性搾取できる社会では女性の人権は蔑ろにされる。日本では買春客による殺害が繰り返されても性売買は合法化され、買う側の責任は問われることない。

「売春(←差別的な言葉)防止法」では買春は犯罪にならず、女性のみが処罰の対象とされ続けている。 北欧やフランス、韓国などのように、買春者処罰法(女性が性売買から抜け出して暮らせるよう支援し、買春者を処罰する)が必要。女性の体を尊厳を売り(売るのは女性自身ではなく業者)買いする社会を変えなければならない。

 

まずは韓国について。

「性売買防止法」としていますが、韓国の性売買特別法は「性売買斡旋等行為の処罰に関する法律」と「性売買防止及び被害者保護等に関する法律」のふたつの法からなり、前者はおもに処罰を規定したもので、後者はおもに保護を規定したものです。仁藤夢乃の言う「性売買防止法」は後者のことでしょうが、前者も見ないと、韓国でどうなっているのかわからんよ。両法を指す場合、性売買特別法としますが、以下見ていく条文はすべて「性売買斡旋等行為の処罰に関する法律」の条文です(条文が続くのは今回だけです)。

 

 

「性売買斡旋等行為の処罰に関する法律」は両罰規定の法律

 

vivanon_sentence韓国では性売買女性が殺されたらあらゆる女性団体が連帯して多くの市民が声を上げ、性売買防止法の制定にも至った」とあります。きっかけは殺人ではなく、火災であったことは「韓国・性売買特別法についての事実を確認する—仁藤夢乃の発言は信用できない[資料編]」で見た通り。「殺された」は比喩的な表現かもしれないですが、ソープランドでの殺人事件とつなげるのはおかしい。

また、「あらゆる女性団体が連帯して」は完全な間違い。仁藤夢乃はセックスワーカーやセックスワークの非犯罪化を求めるフェミニストを女性にカウントしていないのでしょうが、セックスワーカー自身が抵抗を続け、憲法違反だとして裁判を起こしたのも「性売買斡旋等行為の処罰に関する法律」で逮捕されたセックスワーカーです。

以下は裁判を報じる2015年の韓国のニュース。

 

 

仁藤夢乃は「北欧やフランス、韓国などのように、買春者処罰法(女性が性売買から抜け出して暮らせるよう支援し、買春者を処罰する)が必要」と言ってますが、韓国の性売買特別法とスウェーデン方式と言われる買春者処罰の法とはまるで違います(北欧方式とも言われ、英語でもNordic modelで定着しているのですが、北欧のすべての国が採用しているわけではないため、誤解を招くという批判があって、スウェーデン方式の方がより適切です)。

「性売買斡旋等行為の処罰に関する法律」で規定されているように、韓国では売春、買春の双方が処罰される「両罰」の法律です。かつ斡旋や雇用も禁止ですので、店は成立しません。韓国の「性売買特別法」と並べるなら、スウェーデンやフランスではなく、中国の方が適切です。至るところに売春施設のある中国ですが、全部違法。なぜ放置されているのかはまた改めて。

 

 

条文を読む

 

vivanon_sentenceこちらで「性売買斡旋等行為の処罰に関する法律」の全文が読めます。

以下が第一条。

 

제1조(목적) 이 법은 성매매, 성매매알선 등 행위 및 성매매 목적의 인신매매를 근절하고, 성매매피해자의 인권을 보호함을 목적으로 한다.

 

以下、自動翻訳。

 

第1条(目的)この法律は、性売買、性売買斡旋等行為及び性売買目的の人身売買を根絶し、性売買被害者の人権を保護することを目的とする。

 

第4条で具体的に禁止される行為が挙げられています。

 

제4조(금지행위) 누구든지 다음 각 호의 어느 하나에 해당하는 행위를 하여서는 아니 된다.
1. 성매매
2. 성매매알선 등 행위
3. 성매매 목적의 인신매매
4. 성을 파는 행위를 하게 할 목적으로 다른 사람을 고용ㆍ모집하거나 성매매가 행하여진다는 사실을 알고 직업을 소개ㆍ알선하는 행위
5. 제1호, 제2호 및 제4호의 행위 및 그 행위가 행하여지는 업소에 대한 광고행위

 

自動翻訳。

 

第4条(禁止行為) 誰も次の各号のいずれかに該当する行為をしてはならない。
1. 性売買
2. 性売買斡旋等行為
3. 性売買目的の人身売買
4. 性を売る行為をさせる目的で他人を雇用・募集したり、性売買が行われることを知って職業を紹介・斡旋する行為
5. 第1号、第2号及び第4号の行為及びその行為が行われる事業所に対する広告行為

 

第1号にあるように、売春、買春とも禁じられています。だから、「韓国・性売買特別法についての事実を確認する—仁藤夢乃の発言は信用できない[資料編]」で説明したように、セックスワーカーたちが困窮し、人権無視の取締を受けています。

女性を買える、性搾取できる社会では女性の人権は蔑ろにされる」と言ってますが、仁藤夢乃推奨の韓国の法によってこそ、人権は蔑ろにされています。

なお、「体を売る」「女を買う」といった表現は、旧世代の男たちが郷愁とともに好んで使う用語で、英語等の言語でも類似した言葉があるのですが、この表現はミソジニーであるとフェミニストから指摘されています。このような用語を仁藤夢乃が多用していることからも、この指摘は正しいことがわかりましょう。売るのは「サービス」でしかなく、それ以上のものと錯覚させるから、「金を出したらなんでもできる」と勘違いする客が出てきます。

 

 

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