三原じゅん子の発言と八紘一宇に基づく戦前の混血観(松沢呉一)-3,740文字-
三原じゅん子のビックリ発言
ビックリしました、三原じゅん子の八紘一宇発言。八紘一宇が「日本が建国以来大切にしてきた価値観」だってさ。歴史に学ぶ気のない人は知ったかぶりをしない方がいいでしょう。
これについて考えるには、ちょっと前に「ハフィンポスト」に出ていた宮城学院女子大学のJ・F・モリス教授のインタビュー「人は簡単に『忘れてはいけない』という。でもね……」が示唆に富みます。
とくにここ。
「日本人の気質」と言われるものは、その時々の社会的状況に過ぎないんです。自分の知っている過去20年間くらいのものを、都合よく気質と言っているだけ。
ここでの「日本人の気質」は「日本の伝統」「日本の文化」などとしてもいいかと思います。個別にしか語れないことを「日本」というくくりで普遍化させたがります。これをまた「日本人の気質」と言ってしまうと間違えるので、「そうしたがる人がいる」とだけしておきますが、しばしばこういう人たちを見かけますし、私の中にもそういった衝動があると自覚する瞬間があります。
ごく一部の人の特性を日本人という主語で語りたがる。世界のどこでも存在する傾向なのに、日本の特性としたがる。ごくわずかな期間で作り上げられた「日本人」「日本」の性質を歴史的に持続されたものと考えたがる。普遍性を過剰に求めたがるわけです。
誰に教わったのか知らんけど、たぶん三原じゅん子は、八紘一宇は何百年、何千年もこの国を支配してきた普遍的な原理なのだと思えているんじゃないですかね。
なぜ普遍性のないものに普遍性を見出そうとするのか
普遍性のないものに普遍性を見出そうとするのは三原じゅん子だけではありません。
古いものを読んでいても、しばしば感じることです。私は生活文化について調べることが多いわけですが、次々と思っていたことと違うことに出くわします。
「日本伝統の花嫁衣装」はもっぱら近代のものであり、大正期までは黒の着物が花嫁衣装の主流だったり。逆に喪服の黒は西洋からの移入だったり。「芸者の左褄の意味と徹底」はせいぜいここ10年、20年のことだったり。「伝統的おせち料理」は戦後百貨店が売りだしたものだったり。「昔の日本人は命を大切にした」と思っていたら、あっけなく自殺や心中を選んでいたり。「昔の日本人は子どもを大切にした」と思っていたら、間引きが当たり前、子売りが当たり前だったり。
「ビバノン」で書いたことで言えば着物の着付けは戦前と戦後では違っていたり。エロの色が桃色になったのは昭和初期だったり。たかが数十年の間に作られたものを私らは伝統だと思い込んでいます。
「昔も今も同じじゃないか」と感じることも当然あるのですが、同時に、こっちが思い込んでいる「昔の人」とは違っていて驚かされることもあります。性に関してはその連続で、戦前から遊びまくっていた人たちがいて、不倫する女たちがいて、処女性なんざ少しも大事にしない人たちがいて、「話が違う」って感じ。今と同じだから、それまで抱いていたイメージと違う。
これは「日本人はもともと貞淑で処女性を重んじた」という歴史の浅い日本人観が拡大したことの結果でありましょう。それが日本の伝統であるかのように扱うことで、そこから外れる行動を叩きたい人たちの問題です。「私はそれが気に食わない」と自分自身の意見として言う自信も勇気もないから、「日本の伝統」といったものを持ち出すのだと思われて、こと民族主義者の特性ではありません。
その時の事情に照らして、「他者はこうあるべき」「社会はこうあって欲しい」という理想や願望が、こういうことを言わせる。「そうであれば私は都合がいい」ということを歴史の裏付けがあるように語る。または「私」の問題なのに、日本全体が共有しているかのように思いたがるわけです。
混血と八紘一宇の関係
混血児のことを書いていている時に、「はて、歴史的に混血児はどうとらえられていたのだろうか」と気になりました。うちにある本を調べてもある程度のことはわかるのですが、検索できる分、国会図書館が便利です。本文検索ができればもっと便利なんですけどね。
まとめるのが大変なので、あのシリーズではそこまで踏み込まなかったのですが、実のところ、戦前の方が混血に寛大だったのではないかと思われる点があります。あくまで「主義主張として」「理想として」というものに過ぎなかったのだとしても、「日本民族の純潔性」が今よりずっと強調されて、混血が忌避されているのではないかとの推測は間違ってました、
これは八紘一宇の精神によるところも大きい。侵略を正当化したキャッチフレーズと、混血に対する寛大さは一見矛盾しているようでありながら、田中智学によって掲げられた理想としては、そうなるのが自然です。田中智学を読んでないので、これがそのまま田中智学の主張かどうかまではわからないですが。
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