パンパンたちはなぜ消えたのか-ノガミ旅行記 [8]-(松沢呉一)-6,829文字-
「戦後、男娼が街に立つまで-ノガミ旅行記 [7]」の続きです。
新人パンパン増加
再び不忍池のほとりに戻ってきた。さっき便所の横にいたグループの人数が増えている。
「ほら、あの黒い服を着た女。公園にいたでしょ」と千鶴さんが小声で言う。千鶴さんが「見たことのない顔だけど、あれは絶対商売女」と言っていた女だ。千鶴さんが見抜いた通り、このグループの新人だったのである。
「あそこに立っている女も初めて見る顔ね」
皆と少し離れたところに立っている。おそらく五十代。髪の毛を薄く茶色に染めて、オシャレなコートを着ている。この人もまさか商売をやっているようには見えないが、私も彼女が客待ちの視線を漂わせていることは理解できる。
「今は不景気のせいなのか、新人のパンパンが増えているのよ」
公衆便所のすぐ横にあるベンチに千鶴さんと私は腰掛けた。
「金のない客だと、この便所に入って、手や口でやることもあるわよ」
今日はさすがに利用者が多いので、そんなことはできまいが、オバサンたちは、昼間でも、トイレで商売することがあるらしい。
女たちにとってもホテル代を無駄にしないで済むし、客も安価で遊べる方法なのだから、こういう方法があることは不思議ではないのだが、今目の前にいるオバサンたちが、そんなことをしているのだとはなお信じられない。
上野の街娼がこういう方法で客をとるのは戦後まもなくも同じ。これは上野という場所の事情が関わっている。
ふたつの同伴喫茶
千鶴さんと不忍池の脇にあるベンチにいたら、また例の六十代熟女が話しかけてきた。
「今日は全然よ」
「あれからずっと茶を引いているの?」と千鶴さんはお相手をする。
「そうよ」
ここから、互いに情報交換(企業秘密なんで、ここはオフレコとしておく)。
「あら、そうなの。それはひどいわね」
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