松沢呉一のビバノン・ライフ

『闇の女たち』の著者が『闇の女たち』を読む-「闇の女たち」解説編 11(松沢呉一)-2,653文字-

GHQの検閲と発禁-「闇の女たち」解説編 10」の続きです。

 

 

性転換手術と陰茎再生手術

 

vivanon_sentence国会図書館に行くために地下鉄に乗ったら、隣に二十歳くらいの女子とその母親と思われる中年女性がいて、性転換手術の話をしています。

娘さんはこう言います。

「世界初の性転換手術は成功したんだけど、二番目の人は感染症で死んじゃったんだよ」

へえ、そうなんだ。詳しいな。医療関係の学校で医学史を勉強しているのでしょうか。

感心しつつ、さらに聞いていたら、その患者が病院で亡くなった時の様子まで見てきたかのように説明しています。

おい、ちょっと待て。なんでそんなことまで知っているんだ。二十歳に見えて、おまえは今年米寿を迎えるのか。太平洋戦争前に海外に渡航して、その病院で働いていたのか。

私は先に降りてしまったので、続きは聞けなかったのですが、「どうもおかしい」と思って、あとで検索してみたら、映画の話をしていたようです。「リリーのすべて」という映画が、現在、上映されているんですね。知りませんでした。

面白いなあ。この映画も気になりますが、ここで面白いと思ったのは、映画自体ではなく、電車の中でためらうことなく性転換の話をしていたことです。映画にからめてだったら、電車の中でも性転換手術の話ができる。

映画という媒体を通すことによって、口にしにくい内容でも話せる。これが映画化されることの意義だったりしましょう。

本も同じです。『闇の女たち』が出ると、電車の中で母子がパンパンの話をすることが期待できます。

その話がきっかけで、「そう言えば最後に国会図書館に来たのは、日本初のチンコの再生手術について医学雑誌に何か出ていないかと思って調べに来た時だったな」と思い出しました。

結局、その時は手がかりが見つからなかったんですけど、チンコを切ったり、チンコを再生したり、私にとって国会図書館はチンコと縁のある場所です。

 

 

オリジナル『闇の女たち』

 

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国会図書館には一時間ちょっとしかいなかったと思います。編集者がとってきたコピーでは厚さまではわからなかったのですが、白川俊介著『闇の女たち』は、私の方の『闇の女たち』の10分の1しかないペラペラの本だったので、全ページをコピーして終了しました。これは本というより冊子です。

全ページコピーは著作権上好ましくなく、念のため、職員に聞いてみたら、プランゲ文庫の所蔵品については問題なしとのこと。「おそらく」という話ですが、国会図書館に所蔵品のあるものは公開タイトルから外していて、著作権が生きていることがはっきりしているものも外していて、コピーをしても著作権者や、販売している版元に影響しないと判断できるものだけを公開しているのだと思います。

もちろん、図書館でのコピーの話であり、それを公開するなどの利用はまた別基準です。

ん? 出荷前に発禁になった本は、公表された著作物ではないのですから、厳密に言うと、引用などの利用もできないのではないか? あるいは、著者は公刊することに合意をしながら果たせなかっただけなのだから、公表する意思があったことをもって公表されたとみなすことができるのか? それとも、国会図書館が公開した時点で、公表の要件を満たすのか?

といった疑問には気付かなかったことにして、以下、通常通りに引用していきます。

表紙はカラーコピーをとってきました。

 

 

 

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