松沢呉一のビバノン・ライフ

東京市による画期的な婦人職業調査 3—女言葉の一世紀 96-(松沢呉一) -3,614文字-

東京市による画期的な婦人職業調査 2—女言葉の一世紀 95」の続きです。

 

 

 

親の職業で決定する未来

 

vivanon_sentence婦人職業調査」では親に関する項目もあり、これが見事にもうひとつの苛酷さを見せています。正確には「戸主又は夫の職業」の項目です。それが親か夫かそれ以外かを区別できないため、この数字を「親」とまとめておきます。

東京ではそもそも農業従事者はすでに減少していて、回答者の14,929名中546名しか「農業」と答えたのがいません(これは巻末の表の数字。本文では母数も農業従事者ももっと少ない数字が出ていて、どこをどう切り取った数字か不明)。この調査の特性として、親が農業をしていて、その手伝いをしているようなケースは調査対象になりませんので、全体を見た時には親が農業、自分も農業という率が数字に表れないのですが。

もっとも多い「親の職業」は工業で3,797名。続いて商業が2,811名。

「親の職業」が農業と答えた人が現在従事している職業は、女工324名、事務員78名、店員46名、タイピスト33名、車掌16名、雑役婦14名、炊事婦9名、交換手11名、食堂給仕8名、掃除婦6名、給仕5名、エレベーターガール3名、看護婦3名などとなっています。59.3パーセント。6割弱が工員なのです。

看護婦が3人のみなのは、医者と同じく企業勤務の看護婦が対象のためで、この調査の全体でも看護婦は15名しかいません。学校に行かず、金をもらいながら看護試験を受ける方法がありましたから、現実にはもっと数が多かったでしょう。

すでに説明したように「工員から別の仕事へ」と移動しているケースも多いわけですから、現実には農家の娘の7割から8割程度はいったん工員になったのではなかろうか。

店員監督、女工監督という仕事もあるのですが、「戸主又は夫の職業」が農業の場合、どちらもゼロ。農家出身の娘が工員や店員になっても上には立てない。管理する立場になるのはいたと思いますが、おそらく監督の仕事は採用の段階で別基準なのだろうと思います。

※東京市編『婦人職業戦線の展望』(昭和六年)より電話交換手。下は袴ですかね。

 

 

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