松沢呉一のビバノン・ライフ

東京市による画期的な婦人職業調査 1—女言葉の一世紀 94-(松沢呉一) -3,063文字-

子ども騙しの就職ガイド—女言葉の一世紀 93」の続きです。

 

 

 

 

東京市は詳細な調査を実施していた

 

vivanon_sentence前回の最後にタイトルを出した東京市編『婦人職業戦線の展望』(昭和六年)は、同年に行われた「婦人職業調査」の報告書です(調査名が複数出ていて、どれが正式名称かわからず、ここでは「婦人職業調査」で統一します)。

この調査は「資本金五十万円以上の銀行、会社、及び職工三十人以上を使用する工場に従事する婦人従業者」を対象にしたものであり、小さな会社や商店、個人事業主は対象ではなく、たとえば美容師は入っておりません。

また、カフェーや喫茶店の女給、公娼、私娼、芸妓なども入っておりません(もしかすると、食堂給仕という職種にカフェーの女給が入っているかも。というのはチップで月に数百円を稼ぐのがいるとの記述があって、普通の食堂でそうもチップはもらえるはずがないでしょう。大きな飲食関係や娯楽関係の会社が経営するカフェーは調査対象だったかもしれない。とは言え、そんな例は少ないでしょうから、入っていたとしても一店舗か二店舗だろうと思います)。

女中は24名いるのですが、これは会社で雇われて、実際には経営者の自宅で働いているようなケースであり、この条件を外せば女中率はもっともっと高いはずです。

女優も5名いて、当時、映画俳優は映画会社に所属していたためです。5名しかいないってことはどこかの映画会社一社がこれに協力したのでしょう。

医師が2名いて、会社に雇われて医務室で働く勤務医です。

雇用者が中を見られないように、回答用紙を本人が封筒に入れて郵送するようになってましたが、雇用者経由の調査ですから、配布時に誘導的説明をしている可能性もなくはなく、そんな説明がなくても、おかしなことを書いたらあとで叱られるかもしれないとの配慮が働いたかもしれないので、正直に答えているか否かについてはいくらか疑問があります。また。大きな規模の会社が対象なので、全体を反映しているとは限らず、同業の中では実際の平均よりも待遇がいい可能性もあります。そこを踏まえて数字を見ていくことにしましょう。

 

 

一万六千人の婦人職業調査

 

vivanon_sentenceこの調査は回答表への記入方式で行われ、回答表の配布対象は21,193名、回答が得られたのは16,192名。学歴に関しての設問の対象は15,970名。

 

 

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