松沢呉一のビバノン・ライフ

ヒゲの生えたヘルス嬢—毛から世界を見る 56- (松沢呉一) -2,587文字-

アートにおける脇毛表現史[6]-毛から世界を見る 55」の続きです。

 

 

 

小難しい本は勘では読めない

 

vivanon_sentence先日、足立区の銭湯に行く際、電車の中で、老眼鏡をせずに新書を勘で読んでました。露天風呂に入ったあと、腹が減ったのでメシを食い、食後のコーヒーを飲みながら続きを読了しました。

次の本を読むかと思ってもう一冊をバッグから取り出しました。ところが、読み進むことができない。こちらは新書ではなく単行本で、小難しい内容です。これだと勘では読めない。電車の中より照明が暗いってこともあるのですが、現に新書はスラスラ読めましたから、それだけが理由ではありません。また、新書よりも文字がいくらか小さいことも関係はしているのでしょうが、それより内容だと思います。

帰りの電車のために、100円ショップで老眼鏡を買いました。電車の中で老眼鏡をして読んだらクッキリ見えたのですが、頭に入って来ませんでした。読み進めなかったのは内容が難し過ぎただけか。

念のため、老眼鏡をせずに読んでみたら、ちいとも読めない。漢字が多く、アルファベットの横組が多く、かつ難しい内容の本は勘では読めないってことだと思います。歳をとったら読書は軽い新書だな。

その時読み終えたのは辛酸なめ子著『女子校育ち』です。その後も女学校の教育がどう今につながっているのかを見極めるため、古い本と並行して、現在の女子高や女子大についての本を読んでいて、これもその流れです。

国会図書館の公開資料を含め、古いものばかり読んでいる時期が長かったため、この新書の存在さえ知らなかったのですが、2011年に出たものです。すでに変化している部分もありましょうが、納得できる指摘が多く、笑いどころもちりばめられています。

軽い新書の典型ですけど、内容は濃い。私の知りたかったことが満載です。念入りに紹介して論じたいところですが、改めて調べたいことが次々と出てきてしまっていて、ちょっと時間がかかりそうなので、枝葉末節の部分を先に片付けておきます(改めて論じておきました)。

 

 

「ヒゲが生えているのは女子校出身」との説

 

vivanon_sentenceこの本の冒頭に出てくる記述で、長い間の疑問が解消されました。

以下です。

 

 

一般に女子校に大奥的な陰湿なイメージを抱いている人が多いようですが、実際はその逆で、女子だけで力仕事でも何でもやるのでタフになる傾向があります。見た目の見分け方としては、男性ホルモンの分泌でヒゲがうっすらと生えていたり(意外とずぼらでムダ毛を放置)、美人だけれど露出度が低くフェロモンを抑え気味だったり、というのが思い浮かびます。

 

これだっ!

女子校だからって男性ホルモンが出るのかどうかわからないですけど、産毛のヒゲが生えている女子がいるのは男の視線を感じなくて済む女子校だからか。やっとわかりました。

女子でもガテン系の仕事に就いているのがいますし、漫画家やライターでも仕事場に引き蘢っているのがいて、そういうタイプが見た目を気にせず、ヒゲが生えているのはわかるのですが、風俗嬢でも産毛が生えているのがいます。お手入れを怠って、ちょっと伸びた程度ではなく、顔の産毛を剃ったことがないのがいるのです。

風俗嬢は化粧をピッチリやっても汗やシャワーで落ちますから、仕事中は一切化粧をしないのがいます。デートじゃなければ帰りもスッピンです。よって必ずしも化粧が上手で、念入りである必要はないのですけど、間近で顔を見られる仕事なのに、ヒゲを生やしているのは不思議です。

男であれ、女であれ、銀行や郵便局の窓口担当がご飯粒を口の横につけているようなものです。奥で金の計算をする担当はご飯粒をつけていてもいいとして。

中学生なら、鏡を見て鼻の下に産毛が生えてきていることに気づきつつも、どうしていいのかもわからず、かといって人に聞くほどのことでもなく、「大きくなったら化粧でごまかせばいいや」と思っていたりするのがたぶんいるでしょう。でも、高校生になったら誰かしらに教えられて、大半は剃るんじゃないですかね。

「ヒゲ風俗嬢」は、決まって高校を卒業して間がなく、当然、働き始めて間がないのですが、なんでここに至ってヒゲが生えているのか、ずっと謎でした。

※ヒゲ女として活躍したアニー・ジョーンズ。Wikipediaより

 

 

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