松沢呉一のビバノン・ライフ

女子校御三家は半世紀前から優秀だった—勘で読んだ辛酸なめ子著『女子校育ち』(1)- (松沢呉一) -2,945文字-

「江戸しぐさ」を推奨する別学は無効—男女別学肯定論を検討する(4)」からぼんやり続いてます。

 

 

 

辛酸なめ子著『女子校育ち』に教えられたこと

 

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辛酸なめ子著『女子校育ち』については先に毛の話を取り上げました。産毛の話は心底「なるほど」と感心しましたよ。これに限らず、私は目の前にいる人物の学歴をふだん気にすることがない。高校がどこか、女子校か共学か、なんてことも気にしないので、これっぽっちも考えたことのない視点でした。

この本は女子校という存在を知るのに、産毛同様に納得できる話が多数出てきます。些細なことだけれど、大事なこと。

「日本の女性議員率」や「戦前の女学校の役割」なんて流れから、片っ端から進学、就職に関する今現在のものを電車の中で勘で読み続けているのですが、しばしば男女別学のよさをアピールする本では、女子高、男子校が共学よりも大学受験に有利という数字を出してきます。「開成、灘、桜蔭を見ろ」と。

東大入学者数の上位は男子校+桜蔭の別学の高校で占められていて、海外でもそういうデータが出ていますから、これ自体に反論するのは難しそうです。反論する気もないのだけれど。

しかし、辛酸なめ子著『女子校育ち』ではそういった大局的な見方、数字的データより、地に這いつくばった視点が貫かれています。女子高生視点と言っていいかもしれない。「あの学校ってこうなんだよ。うちらの学校はこうだよね」と語り合っているようなトーン。

著者自身が女子校出身なので、愛着、愛情が込められていながらも、その実情をわかっているだけに容赦がありません。男ではなかなか見えないところまで見ています。かつ女でも書かないところまで踏み込んでます。そこがこの本の特色であり、別学肯定論者が出してくる偏差値だけではわからない女子校のいいところも悪いところも見えてきます。

 

 

女子高ではなく女子校

 

vivanon_sentenceこの本に関しての注意があります。

2011年に出たものであり、取材はその数年前のものが収録されています。書き下ろしということになっていますが、雑誌に掲載したものに手を加えている部分がありそうで、2005年の日付がついているものもいくつかあります。高校を卒業して10年経った人に話を聞いていたりもしていて、現役だったのは1990年代です。

すでに見たように、1990年代は女子の進学、就職をめぐる環境が大きく変動した時期です。この本が出た時点でもすでに過去のものになっている内容がありそうで、現在はさらに変質していそう。

もうひとつはタイトルの「女子校」です。「女子高」ではない。つまり、ここで扱われているのは中高一貫の学校です。小学校から一貫の学校も含まれていますから、6年ないしは12年間、同じ学校であり、おおむね同じメンツと過ごし、高校受験を体験していません。

「女子校出身」と言った場合、公立の小学校、中学校を経て、私立の女子高に行く人たちとは一線があります。

ということを踏まえていただいて、話を進めていきましょう(とくに以下はそうですが、このシリーズでは『女子校育ち』以外で読んだものもぶち込んでいくので、ここに書いていくことが『女子校育ち』に書かれているとは限りません)。

 

 

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