存在してはいけない動物を殺すアルバイト—鼻糞君の体験[下]-[ビバノン循環湯 414] (松沢呉一)-3,874文字-
「鼻糞と精液—鼻糞君の体験[上]」の続きです。
鼻糞君が体験したアルバイト
ここまでは名刺代わりに彼の人となりを紹介しただけである。本題はこれからだ。
編集者になる前、鼻糞君は実家暮らしをしていて、アルバイトをしながらバンド活動をやっていた。
「バンドの仲間と一緒にいる時に、おじさんに“仕事があるぞ”と声をかけられて、港でバナナとかの荷物の積み卸しのバイトを始めたんですよ。一日九千円なので、普通のバイトですよね」
誰でもできるけど、誰もやりたがらない仕事なので、その親方はホームレスとかに声をかけてはそういう仕事をさせている。
「仕事の内容は簡単です。バナナは日本に着いた段階では、まだ緑色をしている。それを空気に触れさせて、市場に出る頃には黄色くなっている。だから、着いてすぐに覆っているビニールの口をカッターで切っていくんです」
たぶん袋の中には酸化が進まないようなガスが入っているのだろう。
「僕がやっていたのは、切ったビニールの口を拾っていく仕事です」
「カッターで切った人がそのままゴミ箱に入れればいいじゃないか」
「いや、すごい数なので、全部パート分けをするんです。その方が効率がいい。僕はただただゴミを拾っていく」
※葛飾区上千葉砂原公園にある「ふれあい動物広場」にいるリスザル。以下の写真も同施設にいる動物。本文にはなんの関係もありません。
危険な仕事
仕事内容はなるほど簡単である。しかし、そう甘くはないのが港湾労働である。
「飽きるだろ」
「もちろん飽きるんですけど、それより問題があって、危険な仕事なんですよ。そんな仕事をするのはいないので、ホームレスとヤンキーばっかりです」
「怪我をすることもあるのか」
「しますよ」
カッターで手を切るような怪我と思ったら、もっと大がかりであった。
「貨物船は、四層くらいになっているんです」
一層が深いので、甲板から船底に転落したらビルから転落するようなものであり、下層にショックを吸収する積み荷がない限りは即死を免れない。
「転落は怖いですけど、まだ個人が注意することができる。中からクレーンがバナナを運び上げるんですけど、時々金具が外れて、荷物が落ちてくるんですよ。こっちは個人の注意ではどうにもならない」
バナナだったらいいのだけれど、大量のバナナを入れたコンテナである。
「その下に人がいたらぺしゃんこですよね、アハハハハ」
笑っている場合じゃない。
「僕が働き出した時に、ジイちゃんが先輩面して、“いいか、船の仕事は危険なんだ、気を許すなよ”って僕に説教していたんだけど、その二十分後にフォークリフトに足を踏まれて、安全靴ごと潰れてました、アハハハハ」
「アハハハハ」
私も笑っている場合じゃない。
「そんな時でも、一日分の入院費が出るだけで、翌日は追い出されるんです」
時には死者が出る仕事である。それでも手取り九千円。厳しい。だったら、コンビニで働いた方がいい。しかし、そういうところで雇用されにくい人たちだから、ひどい労働条件でこき使われることになる。せめて保険くらいかけてくれればいいのに、危険過ぎて掛け金が高いのか。
※ベトナム原産ポットベリーピッグ。ペット用のブタである
一泊二日で四万円のバイト
しかし、同じ港の中で、彼はやがて別の仕事を得る。
「しばらくその仕事をしていたら、親方が“おまえは動物は好きか”と言うので、“ええ、まあ”と答えたら、もっとギャラのいい仕事があるって言う」
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