トランクルームの本が大量に濡れていた—台風19号の被害でマゾになる[1]-(松沢呉一)
『マゾヒストたち』無料記事編用に書いていたのですが、SMとは関係のない内容が続くし、キャッチーな内容ではないので、独立させました。「SMで知る「全人類に通用する心理と行動の原理」—『マゾヒストたち』[無料記事編 11]」あたりとつながる内容です。「快と不快」の関係。
台風19号の被害を受けていたことが発覚
甚大な被害を各所にもたらした台風19号が関東に上陸したのは10月12日のことでした。その2日後、つまり台風が去った翌日、借りているトランクルームにひさびさに行ったら浸水していた話をFacebookに書きました。台風被害のあった地域ではないですから、浸水がそんなところに及んでいるなんて想像だにせず、たまたまのタイミングで、うちに溜まった本を置きに行ったのです。
私が借りているところまで水が届いていなかったので、よその心配をしていました。
後日、トランクルームに行ったら、すでに水は完全に引いてました。しかし、一番下になっている段ボール箱が濡れていることに気づきました。3週間ほど経っているのに。
「エーッ」と思って、上に積んであった段ボール箱を下ろして、箱の中を見て愕然としました。最上部までは届かないにしても、箱の半ばまで浸みていて、本も湿っています。
私が借りているのは通路の脇で、アパートやマンションで言えば角部屋に相当。その通路まで水は届いていたのですが、なお私の借りているところまでは距離がありますし、仕切りもありますので、大丈夫だと思ってしまいました。しかし、ピーク時にはもっと浸水していたのでしょう。
とくに本の場合は、紙を通して上まで浸みて、段ボール箱からも上に浸みるので、おそらく時間が経っていたこともよくなくて、浸水していたことに気づいた段階で措置していれば被害はもっと少なかったかもしれないのですが、時すでに遅し。
生活マゾとして楽しめる範囲を超えていた
二度目に行った際に確認できた範囲で濡れた箱は4つあって、ざっと数えただけでも被害はすでに100冊超えです。まだ開いていない箱があったので、さらに被害は増えるのは必至です。
トランクルームに入れていた本は、貴重だからではなく、邪魔臭いからであって、多くは当時新刊で買っていたものや古本屋で安く買っていたものだったため、最悪の事態は避けられましたが、かといって手放すこともできなかったものですから、ダメージは決して軽くない。
シワシワになった本、倍くらいの厚みに膨らんだ本(本の隙間に縦に突っ込んでいたものはスペースの余裕があるため、こうなる)、表紙がくっついてしまった本、カバーが破けた本、本の箱から出せなくなった本、シミができた本の山を前にして生きる気力を失いかけ、川崎市民ミュージアムの担当者はこんな感じかと立ちすくみました。もちろん、あちらの被害は比較にならず大きいですが、こっちは自腹で買い集めたものですから、一概にあちらの方がダメージが大きいとは言えない。
生活マゾなので、その悲しみで脳内に少しマゾ汁が出ましたが、ショックの方が大きすぎて、楽しめるプレイの域を越えてました。
全部箱をあけてチェックする気力が残っておらず、被害のあったものは別の箱に詰めて、またトランクルームに突っ込んで、うちに帰ってから考えました。
私は何も悪くないので、倉庫会社に言えば補償してもらえるんじゃなかろうか。でも、契約書の中に、「台風や地震など不可抗力の事態による被害については責任を負いません」みたいな一文が入っているかもしれない。
100円か200円で買ったもの、献本されたものもありますが、購入価格数千円のものもあります。万に達しているものはおそらくないですが、一冊500円としても、被害総額は5万円以上、千円だとして10万円以上になります。
私が買った値段はそうだとしても、それらを古本屋に売ると二束三文の代物です。こちらが現在の価値になるのかもしれないのですが、丁寧な私宛の献辞入りサイン本もあります。宛名入りのサイン本は古本価格がうんと落ちるのですが、私にとっては重要なものもありますから、古本相場とは別の価値があります。
現金でも、当面トランクルーム代無料でも、菓子折りでも、土下座でもなんでもいいのですが、なんかしてもらわないと納得しにくい。
※くっついてしまった文庫本
(残り 932文字/全文: 2744文字)
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