香港・台湾・シンガポール、そして日本—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[10]-(松沢呉一)
「トイレットペーパーとティッシュペーパーは中国と無関係というわけではない—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[9]」の続きです。
日本より先行した香港・シンガポール・台湾
前回、「トイレットペーパーやティッシュペーパーがどう中国と関係しているのか」を踏まえて、「中国の動きは日本の紙製品に影響を及ぼし得る」ってことを確認しましたが、もうひとつ確認しておかなければならない点は、コロナウイルスに関わるトイレットペーパー不足は日本の前に香港やシンガポール、台湾で起きていたことです。
これについてはすでに指摘している人が多数いますが、念のため、ここでもやっておきます。
2020年2月6日付「Bloomberg」より
少しあとのことになりますが、香港ではトイレットペーパーの盗難まで起きています(下のSS参照)。
わずかなズレなので、確定できないですが、香港→台湾→シンガポールの順番かと思います。
この記事を見ていただければおわかりのように、「中国から入って来なくなる」という憶測は香港から始まってます。中国製品が出回っている香港でそういう憶測が出るのはもっともであり、憶測として語られる分にはデマとは言えない。これが日本に持ち込まれた可能性もあります。
香港情報に注目している人たちはこのことを知っていて、日本で品不足が起き始めると、「香港に続いて日本もか」と指摘している人たちがけっこういました。「台湾に続いて」と指摘している人たちもいました。
台湾では「トイレットペーパーの原料とマスクの原料は同じで、マスクに原料が回されるために品薄になる」という間違った情報が流れて、流した3名が逮捕されているのですが、シンガポールでもこの情報が流れているので、台湾についての報道がシンガポールでトイレットペーパー不足を引き起こしたように見えます。
同じく香港や台湾、シンガポールについての報道が日本でのトイレットペーパー不足の下地になっていたのではなかろうか。事実、例の「デマ」が流れる前に、品薄は始まっていたという指摘もなされています。スーパーマーケットかドラッグストアかコンビニのデータを教えてもらえればはっきりしたことがわかるでしょう。
その後、世界各国でトイレットペーパーの品不足が起きていますが、これらもアジアで起きていることを報じることがトリガーになった可能性があって、もしそうであったら、まさにメディアが作り出していると言い得ます。
報道によって「そうならないようにしなきゃ」と自戒した人たちこそが、「その時に慌てないように買っておこう」という行動をとって品薄が作り出されて、同様の行動をとる人を増大させます。
そんなことが起きていない時に、起きている別の場所のことを報道するのは控えた方がいいとの意見もあるでしょうが、事実は事実なのだし、報道まで自粛することがいいのかどうか。自粛しないとしたら、パニックにならない報道の仕方を模索するか、そもそも買い占めが起きない対策を講じた方がいいのではないか。
※2020年2月19日付「CNN」より
デマがなくてもパニックは起きた
日本でデマとして問題になったツイートは、「トイレットペーパーは製造元が中国」という点に間違いがあったにしても、「パニックになって品不足になる前に準備をしておこう」という善意に基づくものです。パニックを前提にした注意です。
「結果、品不足を起こしたのだから同じだ」という意見もありましょうが、それで言えば「デマだと指摘したのも、パニックになっていると報道したのも、結果、品不足を起こしたのだから同じだ」ということになります。
デマをデマと指摘することによって沈静化することも現にありますから、デマの指摘を一律に否定すべきではないですが、「中国でトイレットペーパーの買い占めが起きると、日本でも不足するかも」「ティッシュペーパーは中国産が大量に入ってきている」と正しくツイートしたところで(これが正しいツイートであることは前回参照)、買い溜めの契機になる可能性はあったわけですから、そもそもデマかどうかの問題ではない。
ツイート主は軽卒かもしれないけれど、この程度の軽卒なツイートはほとんどの人がやっているレベルですし、ツイート主を叩いた人たちもまた思い切り軽卒です。
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