トイレットペーパーとティッシュペーパーは中国と無関係というわけではない—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[9]-(松沢呉一)
「騒動が終わって考えるトイレットペーパー—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[8]」の続きです。
伝播のスピードが速いほどパニックが起きやすい
どこの国の研究者でも、インターネットが買い占め行動に大きな影響を与えると分析しています。あっちでも品切れ、こっちでも品切れと波状に情報が流れ、しばしばそこでは空っぽになった棚の写真が添えられていますから、英国の研究者たちでさえ陥った不安がかきたてられます。
あのエピソードはパニック脳がどういうものであるのかをよーく見せてくれます。「パニックに陥る人たちと自分は違う」という思い込みはまったく役に立たないってことです。「トイレットペーパーがなくなる」と煽る人たちと「それはデマだ」と指摘する人たちは等しく品不足を引き起こすのです。
インターネットやテレビがなかった時代でも、関東大震災時のように、凄まじいスピードでデマは拡散されました。避難のために人々が移動したため、デマは人とともに拡散されたわけです。しかし、今はそのスピードは極限まで速められ、国境を超えて瞬時に伝播します。
そうなると、品不足が起きた時に、一切触れないのが正しいってことになりそうです。しかし、デマを放置してもいいのかって問題があります。
口コミでどうせ広がるのだから、そのスピードを加速させるとしてもSNSで注意を呼びかけることには意味があるという考え方もあろうかと思うのですが、品不足は広範囲で飢餓状態が作られることによって生じます。一部地域であれば他地域の商品を移動させれば済む話ですから。伝播のスピードが遅ければ対応できることが、スピードが速まるとできなくなります。
現実にトイレットペーパー不足は、商品があるのに、輸送ペースが購入ペースに追いつかなくなったのが原因です。
「どうせ感染するのだから、感染しないようにしてもしなくても同じ」とはならないのと一緒です。感染スピードが速ければ速いほど、ベッドも医療機関の人的容量も飽和して、他の病気の人たちまでが死ななくていいのに死にます。
とくに今は通常以上に情報の流れが速い。自宅にいて、ネットを見る時間が長くなっているためです。「ビバノン」ごときにまでその影響が出ています。
どうしたらいいのか、私なりの答えが見えていますけど、ひとたび棚が空になってしまって以降、情報をどう扱うのかは難しい。ただ、同じく触れるとしても、内容に気をつけることはできます。
※2019年5月20日付「FNN PRIME ニュース」より。去年の記事です。お間違えのないように。この時に何が起きているのかをしっかり見ていた人はたぶん少ない。詳しくは以下参照のこと。
「デマ元」叩きへの疑問
「製造元は中国」として品不足になるとしたツイート主を叩く人々を見て、「これを叩くべきかなあ」と疑問に思ったのは、叩くことも情報拡散に加担し、買い占め行動を促進することになるためではなく、その内容です。
私がこの騒動に気づくとほとんど同時に、「デマ元」叩きを批判する動きがありました。2月29日付Yahoo!ニュース「「トイレットペーパー不足デマの発信元はこの人!」→というデマが流れて個人叩きに」がそのひとつ。
この内容は「その前から同様の指摘はなされていた」というものであり、元ネタとされている人物のツイートは元ネタとは言えないという趣旨です。これによって個人叩きを諌めています。
それが明らかなデマであるなら、1人目であろうと10人目であろうとさして変わりはなく、叩かれてもいいとは思うのですが、デマとして叩くようなツイートではなかったと私は認識しています。
この場合について言えば、このツイート主より、叩くことでトイレットペーパー不足を拡散した方が影響が大きかった分、責任が重い。
沈静化した今、そのことを改めて確認しておきます。
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